恒例!? 今年観た映画のベスト3

このブログでは、毎年大晦日、僕がその年に観た映画のベスト3を紹介しています。
今年は試写を含めると100本弱の映画を劇場で鑑賞しました。去年よりはちょっと少ないかもしれません。
今年は、いや今年もシリーズやリメイク、リブートが目立ちましたね。偶然でしょうが、今年はほんとに僕が好きなシリーズものの新作が多く、そのなかには当然ながら印象深いものもあったのですが……それらは思い切って対象外とし、ベスト3には入れないことにし、後述することにします。
では以下、順不同で…。


●『草原の実験』(アレクサンドル・コット監督)

タイトルと宣伝文句から、結末は予想できてしまったのだが、面白くなかったわけではない。それどころか、台詞はまったくないまま、これでもかというほと次々に展開する美しいシーンに目を奪われた。タルコフスキーキューブリックウェス・アンダーソンの諸作品を思い出せなくもなかったが、ほとんど見たことのない新しいタイプの映画といってもいいだろう。実験を扱った実験的な映画である。そして描かれているテーマを考えると、3.11を経験したはずの日本で、いまのところこの作品に匹敵する作品がないことを残念に思う。


●『ハーモニー 』(なかむらたかしマイケル・アリアス監督)

いわずと知れた天才作家・伊藤計劃の遺作をアニメ映画化するという「Project Itoh」の第2弾。僕は幸か不幸か、いやたぶん不幸なことにこれまで原作を読む機会がなかったのだが、評判がいいらしいと仄聞したので、なんとなく観てみたところ……アニメ映画でここまでの衝撃を受けたのは、『イノセンス』(押井守監督)以来かもしれない。ジャンルとしては、これまで飽きるほど観てきたいわゆるディストピアもので、映画にしては台詞が多すぎるという欠点もあるのだが、フーコーやそのフォロアーのいう「生政治」を最もラティカルに解釈し、想定した未来社会が描かれた作品であるのは間違いない。その後、「Project Itoh」を遡るかたちで『屍者の帝国』(牧原亮太郎監督)も観てみたところ、こちらは普通に面白い歴史SF(?)映画だったのだが、登場人物たちが築こうとする「理想」が、『ハーモニー』とほとんど同じで、原作者・伊藤計劃の作家性を強く感じた。そしてその「理想」とは、『イノセンス』で主人公バトーが、ハラウェイやキムから提示され、惹かれつつも抵抗する「理想」ときわめて近いことも興味深い。いつか考察してみたい。


●『野火』(塚本晋也監督)

これまたいわずと知れた大岡昇平の同名小説を映画化したもの、もっといえば二度目に映画化されたものである。少し遅れて秋に鑑賞したのだが、劇場で観ることができてほんとによかった。監督のインタビューなどでは、制作費に苦労したとのことだが、観た限り、安っぽさを感じることはいっさいなかった。『プライベートライアン』など、ハリウッドの大作戦争映画に匹敵する力作。戦争という極限状態であらわになる人間の残酷さがそのまま残酷に描かれているのだが、日常・平時との距離はいかほどだろうか−−。


○そのほか


ではシリーズものについて。『マッドマックス 怒りのデスロード』(ジョージ・ミラー監督)、『攻殻機動隊 新劇場版』(黄瀬和哉監督)、『007 スペクター』(サム・メンデス監督)、そして『スターウォーズ フォースの覚醒』(J・J・エイブラムス監督)は、シリーズそのものに思入れがありすぎて、冷静に批評できません(苦笑)。一言ずつのみ述べておくと、『マッドマックス』はまさかのフェミニズム映画であったことに驚き、『攻殻機動隊』は押井や神山の攻殻作品をオマージュしつつも媚びない姿勢が好ましく、『007』は(前作に続き)古さと新しさが入りまじった完成度に感心した。そして『スターウォーズ』は、旧シリーズへのオマージュが多すぎて新作というよりはリメイクにも見えてしまったともいえるが、その一方で新しいキャラクターたちが素晴らしく、いい意味で謎も多く、次作が心から楽しみになる一作だった。『ターミネーター』のリブートと『ジュラシックワールド』は、まあ観ている間楽しかっただけでいいとしましょう。『アベンジャーズ』も楽しかったけど…次の『シビル・ウォー』のほうが面白そうですね。しかし、楽しみだったのが『007』、『スターウォーズ』、『ジュラシックパーク』、『マッドマックス』、『ターミネーター』なんて、今年はいったい何年だったしょうか(苦笑)。

『顔のないヒトラーたち』、『ヒトラー暗殺、13分の誤算』、『ミケランジェロプロジェクト』、『黄金のアデーレ』など、ナチスがからむ映画が多かったように思うのは気のせいかな。

来年もよい作品に出会いたいものです。みなさん、よいお年を。