『眠れる美女』

こちらではずいぶんひさしぶりの更新となります。
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午後、渋谷の映画美学校で『眠れる美女』(マルコ・ベロッキオ監督)の試写を拝見した。「尊厳死」を扱った映画だと聞いていたので、襟をただして観てみた。

監督は『夜よ、こんにちは』などで知られるイタリアの巨匠。この映画はイタリアで実際に起きた「尊厳死事件」にインスパイアされてつくられたらしく、その事件を背景に、3つの物語が併走する。


眠れる美女
http://nemureru-bellocchio.com/


そのそれぞれに昏睡状態かそれに近い状態の女性が登場し、人々を翻弄する。いや、「活気づける」といったほうがいいかもしれない。「事件」の女性も含めて、「眠れる美女」は4人。交通事故に遭って昏睡状態となり、その延命停止が国家レベルの論争を呼んでいる女性。その論争にもかかわる登場人物が回想する末期がんの女性。リストカット癖があり、自暴自棄になった薬物中毒の女性。大女優が自らのキャリアを捨てて看病するその娘。彼女らの周囲で、親子、きょうだい、男女の関係にひびが入り、そしてそれが埋まる。喪失と再生の物語…といってしまうと、陳腐すぎるだろうか。
尊厳死やその法制化の意味を問う社会派ドラマかと思っていたのだが、どちらかというと、「眠れる美女」たちにかかわる人々の心理を描いたヒューマンドラマといった側面のほうが強い。物語自体が重層的なので、描かれる人間関係も単純ではなく、複雑かつなかなか濃厚である。観る者によって心に響くポイントは異なるだろう。その意味でよくできている。
かといって、この映画が尊厳死問題などを論じるための素材にならないのか、といわれれは、ならないこともないだろう。イタリアかカソリックの国であるということも考慮しながら観るといいと思う。
なお安楽死尊厳死、自殺幇助を扱った映画には、『ミリオンダラー・ベイビー』、『私の中のあなた』、『海を飛ぶ夢』などがあるが、僕としてはアルモドバルの『トーク・トゥー・ハー』を思い出した。『トーク〜』を、たとえば『バベル』のような、複数の物語が並走し、最後にまとまるような形式に変換すると、この作品のようになるかもしれない。『バベル』の銃弾に当たるものが、『眠れる美女』では昏睡状態の女性たちということになりそう。
秀逸。
いわゆる生命倫理問題と映画文化の両方に詳しい人に解説・批評させたい。ようするに、僕のことだ……というのは冗談として、大谷いづみさん、川口有美子さん、小松美彦さん、児玉真美さんなどが適役だろう。


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