最近観た映画----『カムイ外伝』など

 忘れないうちに簡単な感想だけをメモしておきます。監督、出演者、原作、あらすじなどの基本データについては、リンク先などをあたってください。


●『TAJOMARU
http://wwws.warnerbros.co.jp/tajomaru/
 何を隠そう僕は芥川の愛読者なので、「藪の中」が原作と聞いて観ないわけにはいかない。周知の通り、黒澤の『羅生門』もまた芥川の「藪の中」と「羅生門」をベースにしている。つまりこの映画は当然ながら芥川ファンと黒澤ファンの両方を意識してつくられているのだろうが……おそらくどちらも裏切られたのではなかろうか。「藪の中」や『羅生門』で描かれる人間感情の複雑なもつれあいは、みごとに単純化され、ただの純愛映画になってしまっている。ガクっときてしまった。ところで、芥川作品を原作にしてチャンバラや恋愛を描きたいならば、「藪の中」や「羅生門」ではなく、「偸盗」を原作にした映画をつくればいいのではないか。純愛映画にはならないと思うが。それ以前に、マイナーすぎるかな。
●『サブウェイ123激突』
http://www.sonypictures.jp/movies/thetakingofpelham123/
 カネもアイディアも尽きたらしいハリウッドは、ひたすらシリーズものとリメイクものをつくり続けるしか生き残る術がないようだ。これもその1つ。といっても、僕は映画史に名高いオリジナル『サブウェイパニック』を観た記憶がないので、僕にとっては完全な新作と同じ。ぜひオリジナルと比較してみたいが、金融とかネットとか、現代風のアイディアもそこそこ活かされていたように思う。
●『アニエスの浜辺』(試写)
http://www.zaziefilms.com/beaches/
 こちらもオールド映画ファンを取り込みたいという意図が透けて見える作品。アニエスというのはアニエス・ヴァルダのこと。パートナーのジャック・ドゥミも含め、その人生を回顧的、自伝的に描いた、ドキュメンタリー的ファンタジー、もしくはファンタジー的ドキュメンタリー。いわゆるヌーベルヴァーグに思い入れがある人にとってはたまらない作品かもしれないが、そうではない僕にとっては、不思議なテイストが少し印象に残った、という程度。前作『落ち穂拾い』はとてもよかったのだが……。
●『こつなぎ 山を巡る百年物語』(試写)
http://blog.livedoor.jp/kotsunagi/
 こちらは正真正銘のドキュメンタリー。岩手県の小繋という小さな集落では、人々が山の木々や山菜を採りながら暮らしてきた。山はいわゆる「入会地」である。しかし、あるときから私有化された山への立ち入りが禁止され、その「入会権」をめぐり、集落の人々のあいだで100年も続く争いが起こった。本作は、訴訟を含むその経緯を追っていた3人のジャーナリストが残した膨大な記録を再編集してつくられたもの。奇しくも今年のノーベル経済学賞をとった研究と同じテーマだ。あまりポピュラリティのある作品ではないと思うが、多くの人に観てほしいと思う。
●『リミッツ・オブ・コントロール
http://loc-movie.jp/
 ジム・ジャームッシュの新作。前作『ブロークン・フラワーズ』はいまいちだったので、あまり期待せずに観たところ、大当たりだった。ジャームッシュの過去の作品のなかでは、『ゴースト・ドッグ』の雰囲気に近いかも。スペインが舞台ということもあり、アルモドバルの諸作品を彷彿とさせたりもする。このごろの映画は「誰にでもわかる」、「誰にでもウケる」ようにつくられているものが多いが、この作品は観客に対し、かなりの解釈を強いる。登場人物の行動や台詞は、1つのセットを少しずつ変化させながら何度も繰り返す。まるで現代音楽、あるいはポストロックのように。設定は不明確で、ウィリアム・バロウズから借用したというタイトルも意味深。ダメな人にはダメかもしれないが、僕のストライクゾーンには入った。
●『カムイ外伝
http://www.kamuigaiden.jp/
 いくら嫌な予感がしても、原作に思い入れのある者は観てしまうだろう。僕もその1人。が、あまりにも悲観的な先入感がかえって功を奏したのか、それほど悪い作品ではなかったと思う。周知の通り、主に「スガルの島」をベースにしているが、原作を読んだことのある者には、そのほかのエピソードも散りばめられていることがすぐにわかるはず。いくつか、あまりに唐突で、ご都合主義的な展開がないわけではなかったが、それはマンガが原作なのだから仕方がない。そもそも現実にはありえない展開がフィクションの醍醐味なのだ。アクションもまあまあ。安易なハッピーエンドにもなっておらず、カムイの敵のうち大物で倒されたのはただ1人だけ……というのもよかったのだが、続編狙いなのかあ。
●『悪夢のエレベーター』(試写)
http://www.akumu11.jp/
 いわゆるシチュエーション・スリラー。この手の映画には不可欠な大どんでん返しが、1回だけではなく、2回組み込まれていたことは、評価されていいだろう。
●『千年の祈り』(試写)
http://sennen-inori.eiga.com/
 まったく期待せずに観たら、なかなかの味わいだった……と思ったら、それもそのはず、『スモーク』や『ジョイ・ラック・クラブ』と同じ監督の作品だった(出演者も後者と重なっている)。アメリカを舞台にした作品だが、登場人物は非アメリカ人ばかりで、アメリカ映画には見えない。中国人が中国人に対し中国語で話す台詞にはちゃんと字幕が付けられていたが、中国人以外を相手にして、独り言のように話される台詞には字幕がなかった。中国語のわからない観客は想像するしかない。つまり観客は解釈することを強いられる。いずれにせよ、ハリウッドの失墜と変貌を感じさせる佳作。
●『私の中のあなた』
http://watashino.gaga.ne.jp/
 引っかかった! 宣伝や知人の日記で、着床前の組織適合遺伝子検査、いわゆる「ドナー・ベビー」や、ロングフルライフ訴訟をテーマにした作品だと思って観てみたところ……違った。真のテーマは、S○○だった。つまり『海を飛ぶ夢』や『ミリオンダラー・ベイビー』に近い。しかしこの2作が、どちかというとA△△に近い事例を扱っていたのに対して、本作はもろS○○に焦点をあてている。パンフレットを立ち読みしたところ、原作の翻訳者が手短な解説を書いていた。そのほかH血病について、解説書からの要約があった。出典はあったが、テキスト自体に署名はなかったと思う。というわけで、この映画についてはOさんの感想を聞いてみたいところ。作品としてのクオリティについていえば、オチは少々安易だと感じた。もうひとひねりあるかなと思ったら、そのままエンドロールが……。
●『大洗にも星はふるなり』(試写)
http://www.ooarai-movie.com/
 お笑い芸人たちのコントが好きな人には、面白い作品かもしれないが、そうではない僕にとっては、そこそこの出来のコメディ。最近の邦画のなかでは健闘しているほうかも。09.10.24