ダウン症とその「治療」
日本語圏では、わずかにAFPが伝えているようだが、先月、アメリカの研究者たちが、ある薬剤によってダウン症を「治療」できるかもしれないことを動物実験で明らかにした。もちろん、まだまだ基礎段階の研究ではある。また、そもそもダウン症を「治療」するという発想自体に抵抗がある人も少なくないだろう。
しかしながら、こうした研究が行われているという事実だけは知られてもいいと僕は思うのだが、そうは思わない人も多いのだろうか。
記事とその情報源の論文をリンクを示しておく。
ダウン症治療に効果か、神経伝達物質ノルエピネフリンの増加 米研究
http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2665684/4931820
Restoration of Norepinephrine-Modulated Contextual Memory in a Mouse Model of Down Syndrome
http://stm.sciencemag.org/content/1/7/7ra17.abstract
一方、カナダの研究者ら----カウンセリング系----は、ダウン症の親たちのなかには、もし可能だとしても、自分たちの子どもの治療を望まない者もいる、という調査結果を発表した。
『ロサンゼルス・タイムズ』のブログ「ブースター・ショッツ」がそれを伝えている。一部、翻訳に自信がない部分があるが、ご参考までに。
“素敵なクスリ”は、ダウン症候群の人々にとって“素敵”か?
Is a wonder pill necessarily wonderful for people with Down syndrome?
11月18日 2009年 午前11時01分
November 18, 2009 | 11:01 am
科学者たちは、ダウン症候群という遺伝性疾患のための治療法の開発に奮闘している。しかし、たとえもし、科学者たちがそれに成功しても、子どもがダウン症である親の60パーセント近くがそれを見送るかもしれない。
http://latimesblogs.latimes.com/booster_shots/2009/11/down-syndrome-treatment.html
バンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア大学心理学部の研究者らによって実施された調査では、親たちのうち27パーセントが、自分たちは子どもを治療しないだろうと言い、ほかの32パーセントはわからないと言った。多くの親たちは、治療が子どもの性格を変えてしまうという懸念を表明した、とこの調査を実施した遺伝カウンセラー、アンジェラ・イングリスAngela Inglisは言う。
「はい、それは問題です。しかしあなたの人生はよいほうへ多くの道筋で変わるでしょう。[しかし]あなたは、彼がいないことを想像することはできません」と、治療を断るであろう親の1人は言った。
こうした感覚は普遍的なものではなかった。親の41パーセントは、自分たちはダウン症の子どもたちを間違いなく治療するだろう、と言う。そうした親たちは、自分たちは、その子どもをより独立させ、人生においてより多くの機会を与えるという希望によって動機づけられている、とイングリスは言う。彼女は、子どもの世話に最もたいへんな時間を過ごした親は、そのほとんどが治療を求める、と付け加えた。
「とても難しいのです。とくに家族のダイナミクスにとっては」と、ある親は研究者たちに話した。「それは私たちの生活を変えます。というのは、そこにはとても多くのストレスと、特別なニーズのある子どもにまつわる問題があるからです。私たちはしばしば、人生について、あきらめるように感じます」
ダウン症患者は、通常は2つである21番染色体を3コピー持つ。精神的、身体的症状に加えて、それは先天的な心疾患、聴覚障害、セリアック病、認知症、そして腸や目、甲状腺、骨格の問題を起こしうる。国立子ども健康・人間発達研究所によれば、ダウン症の人々はしばしば50代まで生きる。
およそ800人に1人の赤ちゃんがこの疾患を持って生まれる。35歳以上の妊婦は通常、ダウン症のための出生前スクリーニングを進められる。調査された親の3分の2近くが、その疾患のための----羊水穿刺や絨毛膜絨毛のサンプリングを通じた出生前診断は、“よいこと”だと言った。60パーセントは、そうしたテストは、どの年齢の妊婦にも利用可能であるべきだと言った。
この調査はカナダで実施され、101人の親から回答を得た。同様の調査は、アメリカではなされていない。この結果は、今週、アトランタで開催される国立遺伝カウンセラー協会の年次教育会議で報告された。〔後略〕
ダウン症の治療薬開発についても親たちの複雑な心理についても、こうした事実は、医師や遺伝カウンセラーなど「専門家」だけが知っていればいいのか。少なくとも僕はそうは思わない。09.12.23
追伸;
ところで、ダウン症と出生前診断について調べているうちに、幹細胞との関連で、ある不穏な問いが浮かんできてしまった。その答えを出すには……もうしばらく時間がかかりそうである。
なお日本における出生前診断については、最近出版された『妊娠』(洛北出版)という本が必読である。
- 作者: 柘植あづみ,菅野摂子,石黒眞里
- 出版社/メーカー: 洛北出版
- 発売日: 2009/12
- メディア: 単行本
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