『レンタネコ』

夕方、渋谷のショウゲート試写室で『レンタネコ』の試写を観る。いわずと知れた荻上直子の新作である。荻上の作品は『かもめ食堂』を試写で観て感心し、デビュー作の『バーバー吉野』をDVDで観て、『めがね』、『トイレット』を試写で観た。『かもめ食堂』以外は、荻上的な世界を好む人には面白いかもしれないけど、そうでない人にはどうだろう、と思ってきた。(つまり『やっぱり猫が好き』とかが好きな人にはいいだろう、ということ。そのほか監督は違うけど、『マザーウォーター』とか。そういえば、僕は『東京オアシス』を見逃している。)
 今回は市川実日子主演ということで期待しないわけにはいかない。僕はずいぶん昔から彼女って存在感ある女優だなあと思っていたのだが、なぜか主演作が少ない。『タイムレスメロディ』と『Blue』ぐらいではなかろうか? 
というわけで、それなりに期待してしまったのだが、その一方で、寂しい人にネコを貸す人が主人公の映画だということを試写状で知り、わかる人にしかわからない、難解な(?)映画だったらいやだなあ、とも思っていた。
主人公は、ネコ好きの祖母の残した家で、何匹ものネコと暮らすサヨコ。もちろんネコが大好き。サヨコは、ネコをリヤカーで引き、「レンタ〜ネコ〜」と宣伝して歩く。しかし誰にでも気軽に貸すわけではない。残念ながら動物をいじめる人もいるので…と説明し、希望者の家を訪ね、審査してから貸すかどうかを決める。そういえば、つい最近、虐待を目的に動物を買う人がおり、ブリーダーもそれを気にする、ということを知ったばかりだ。サヨコは、老婦人や中年男、レンタカー屋の受け付け女性などと知り合い、それぞれの人生に少しずつかかわり、ネコを貸すことを決める。孤独な人々の心の「穴」が、一つひとつ埋まっていく。
なかなか面白かった。
おそらくこれまでとくに荻上の作品を気に留めてこなかった人でも楽しめるのではなかろうか。また、たぶんネコ好きの人にはとりわけ面白いのではないかと想像する。
通常、動物が登場する映画では最後に、いかなる動物も虐待されていないということを明記されるが、この映画では……このことは書かないでおこう。
動物が登場する映画を観たり、動物に関するニュースを読むたびに思うのは、この社会には人間のように扱われる(保護・虐待される)動物がいる一方で、動物のように扱われる(保護・虐待される)人間がいる、という矛盾のようなことだ。この映画も、描かれているのはネコだけでなくて、むしろ人間のほうである。確か、何年か前に、ドキュメンタリー映画『犬と猫と人間と』を観たときも、同じような感想を抱いたと記憶している。