幹細胞研究の規制緩和

 幹細胞の話題ばかりで恐縮だが……アメリカでは、オバマ新政権によって連邦予算を使えるES細胞株が拡大され、日本では、2重審査体制が緩和されるという。日本再生医療学会の主張が通ることになる(出典の表記法を試験的に変えてみます)。

 政府の総合科学技術会議生命倫理専門調査会は18日、人間の万能細胞の一種である胚性幹細胞(ES細胞)研究の一部について、研究施設と国による2重審査態勢を緩和する方針を決めた。
 緩和されるのは、既存のES細胞から神経や筋肉細胞をつくるなどの使用研究。受精卵から新たなES細胞を作製する研究では、2重審査を維持すべきだとした。
 具体的にいつからどのように緩和するかは今後、文部科学省の委員会などで検討する。
 ES細胞は、赤ちゃんに育ちうる受精卵を材料にするという倫理上の問題が重視され、作製、使用とも2001年以来、国の指針で厳しく規制されてきた。
 だが、京都大の山中伸弥(やまなか・しんや)教授が07年に、受精卵を使わない新型万能細胞「iPS細胞」を人間の皮膚から作製したことなどを受け、国内の研究者らから、再生医療研究全体を進めるために、研究の蓄積があるES細胞の規制緩和を求める声が強まっていた。(無署名(共同通信「ES細胞研究の審査緩和へ 「使用」のみ、政府調査会」共同通信、2008年11月18日付)

 2重審査体制が緩和され、研究機関内の倫理審査委員会(いわゆるIRB)の審査のみ通れば研究の実施が認められるのは、あくまでも既存のES細胞株の「使用」のみである。新しくES細胞株を樹立したい場合には、従来通り、IRB文部科学省の審議会の審査を両方とも通らなくてはならない。
 しかしながら、たとえば昨日紹介したような、ES細胞から脳をつくるような研究については、IRBの審査だけでよいだろうか。そのほか、いまは禁止されているがやがて認められるであろう、生殖細胞をつくるような研究ではどうだろう。ぬで島次郎さんは、この脳のケースでは、審査過程に問題があったのではないかと指摘している(「《時評》脳を再生〜「万能細胞」の利用はどこまで許されるか〜」)。つまり現行の2重審査体制においてでさえ、である。
 アメリカのオバマ新政権は、連邦予算を使えるES細胞株を拡げるであろうが、研究者はNAS全米科学アカデミー)のガイドラインに従うよう、政策を設計するであろう。NASガイドラインには、私見では、日本の文部科学省の指針にはない項目が含まれている。つまり、より厳しい(ココなどを参照)。アメリカでは、ブッシュ政権が連邦予算を使うことを認めてきたES細胞21株のなかに、NASガイドラインに適合しないものがあることが、生命倫理学者の調査によって明らかになった。それらを研究に使うことを中止した大学もある。つまりアメリカでは、アカデミズムが率先して厳しいガイドラインをつくり、研究機関もそれに従い始めている(拙稿「いまなお倫理問題に揺れるアメリカの幹細胞研究」、『メディカルバイオ』2008年11月号、100頁)。アメリカには、日本のような2重審査体制はないようだが、アメリカのアカデミズムの姿勢は、日本のそれと対照的のように思われる。安易な規制緩和がなされなければよいのだが。08.11.21

Medical Bio (メディカルバイオ) 2008年 11月号 [雑誌]

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