SF的な、あまりにSF的な

 すでにタイミングが悪いが、コメントしなくちゃ、と思っていて時間が過ぎてしまったのが、日本の研究者らが、ヒトES細胞から脳組織をつくることに成功した、というニュース。 

ヒトES細胞から脳組織作成に成功 理研

 万能細胞とされるヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)から、立体構造を持つ大脳皮質の組織を作り出すことに、理化学研究所発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の笹井芳樹グループディレクターらのチームが成功した。4層構造で、胎児の脳組織にそっくりだという。6日付で米専門誌セル・ステムセル電子版に掲載される。
 これまで、ES細胞から心臓や神経の細胞はできていたが、複雑な立体構造と役割を持つ「組織」ができたのは世界でも初めて。脳ができる仕組みの解明や再生医療、新薬開発の研究につながると期待される。
〔中略〕
 大脳皮質は運動、思考をつかさどる脳の最高中枢。ヒトの大人では6層だが、胎児では4層の時期がある。作り出した組織には4層の皮質があり、胎児の組織とよく似ていた。〔後略〕

 ポイントは2つ。第1に「立体構造」を持つ「組織」ができたこと。第2に「運動、思考をつかさどる脳の最高中枢」ができたこと。『朝日(asahi.com)』を選んだのは、この2つのポイントがわかりやすく書かれていたからだ。できるだけ長期間、ウェブ上にアップされるといいのだが、『朝日』の短所は記事がすぐに消えることだ(苦笑)。
 ES細胞にせよiPS細胞にせよ、そこから分化誘導させられるのは単純な細胞群だけで、立体的な組織や臓器、ましてや「個体」なんてできない、とこれまでは言われてきたはず。が、それも時間の問題なのだろうか。としたら、次は「個体」か。しかも「脳」である。
 ……といろいろと考えていたら、ぬで島次郎さんが論評を書いた。
 
《時評》脳を再生〜「万能細胞」の利用はどこまで許されるか〜


 いろいろと考えさせれる。脳死を人の死とみなせば、脳を特別視することは当然で、脳をつくることにも慎重にならざるを得ない。しかし脳死を人の死とみなさないならば、どうだろう。脳をつくることはいくらでも許されるのだろうか。たぶん、そうはならない。少なくとも僕はそのようには考えない。脳死を人の死とみなさなくても、脳をつくることには慎重であるべきだ。少なくとも生殖細胞をつくることと同じくらい慎重であるべきだし、少しでも「個体」につながりやすい、あるいは「個体」を連想しやすい要素がある場合には、さらに慎重であるべきだろう。
 ところで、森博嗣が原作(小説)を書き、押井守が映画化した『スカイ・クロラ』では、「キルドレ」と呼ばれる、戦闘で殺されない限り死ぬことのない、成長することもない少年・少女たちが戦闘機のパイロットとして登場する。しかも戦闘で死ぬと、その者とそっくりな者が後任者としてやってくる。何人かが指摘していたが、キルドレは間違いなく、幹細胞やクローンといったバイオテクノジーの産物である。つまり『ブレードランナー』のレプリカントと同じ。
 上記の記事を読んで、僕はキルドレ(やレプリカント)を思い出した(と同時に、紀里谷和明が監督した実写版『CASSHERN』も思い出した)。
 未来の戦争は、バイオテクノジーでつくられたアンドロイド兵士どうしが戦うことになるのだろうか。それじゃあまりにも、SF的すぎる。08.11.20

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