生-経済、生-資本の困難
タイミングが悪いのですが、11日、政府の「BT推進官民会議」が、「ドリームBTジャパン」というものをまとめたそうです。2002年の「BT戦略大綱」を更新したものです。
生命科学分野関連の閣僚や有識者でつくる「BT(バイオテクノロジー)戦略推進官民会議」は11日、新型万能細胞「iPS細胞」などを活用した革新的医薬品の速やかな開発など、日本の今後5年程度のバイオテクノロジー強化策を掲げた指針「ドリームBTジャパン」をまとめた。
2002年に策定された「BT戦略大綱」の更新版。深刻化した食料、エネルギー問題などの解決策として遺伝子組み換え作物研究の推進も盛り込んだ。ただ「社会的受容が不可欠」として、そのための行動計画を今後、作業部会で策定することになった。〔略〕(無署名(共同通信)「革新的医薬品開発へ加速 BT戦略推進官民会議で強化策」、『共同通信』2008年12月11日19時53分)
http://www.47news.jp/CN/200812/CN2008121101000776.html
ここでは「遺伝子組み換え作物」が「社会的受容が不可欠」なものとしてあげられていますが、おそらくバイオ全般にいえることでしょう。そのために教育の充実や各種ルールの制定(政府審議会や機関内倫理委員会の運営などを含む、法律や指針の明文化)が求められているわけです。
2009年度の予算について連日報道され続けていますが、22日に麻生首相が説明した「重要課題推進枠」でも、iPS細胞が登場したようです。
〔略〕教育・研究開発分野は705億円を上乗せし、再生医療のカギとなるiPS細胞(人工多能性幹細胞)など世界最先端の研究開発を強力に後押しする姿勢を示した。〔略〕(清水憲司「09年度予算:重要課題推進枠、社会保障に775億円 公共事業492億円増」、『毎日新聞(毎日jp)』2008年12月23日 東京朝刊
http://mainichi.jp/select/biz/news/20081223ddm002010038000c.html
何度か紹介してきた社会学者ニコラス・ローズは、このように述べています。
生-価値〔バイオバリュー〕の探求によって力を得て、新しいつながりが、知と資本化とのあいだで形成される。株主〔にとって〕の価値や人的価値の要求は、治療や最適性という希望に投資する。新しい経済的空間----生-経済〔バイオエコノミクス〕----そして新しい資本の形態----生-資本〔バイオキャピタル〕----がつくられるのだ。〔略〕(Nikolas Rose, The Politics of Life Itself, Princeton Univercity Press, 2006, p.6)
ローズのいう「生-経済(バイオエコノミクス)」、あるいは「生-資本(バイオキャピタル)」を推進させるためには、その暴走(とそれによる自滅)を防ぐために、あるいていど管理(コントロール)する必要があります。幹細胞研究への規制は近年、少なくとも世界的に見れば、大規模な再編成がなされています。
最近、その動向についての記事を書きました。近いうちに紹介できるかと思います。
幹細胞研究の規制再編といえば、当然のことながら、オバマ次期政権の予期的な影響が見え始めています。周知の通り、オバマは連邦予算を使うことのできるES細胞株の枠を拡げようとしているのですが、幹細胞研究支持者にとっての不安材料は、まだまだあるようです。
〔略〕オバマは、たとえもし彼がその政策を変えたとしても、近い将来、幹細胞研究者にさらなるカネを送るには、まだ力が足りない。というのは、彼は歴史的で世界的な財政危機のまっただなかで就任することになるだろうからだ。アメリカ政府はすでに、金融システムを救うために、8兆ドルという驚くほどの額をつぎ込むことになっている。
まだ、バイオテクノジーの諸団体は、オバマが経済への巨大刺激プランの一部として、国立衛生研究所からの政府研究予算を増加させうることを望んでいる。
幹細胞研究にとってのもう1つの大きな障害としては、経済危機が、たとえば幹細胞企業のような、ハイリスクのバイテク新規事業への民間投資の流れを窒息させてしまうことがある。(Bernadette Tansey "Obama policy a lift for stem cell researchers", San Francisco Chronicle, November 29, 2008)
http://www.sfgate.com/cgi-bin/article.cgi?f=/c/a/2008/11/29/MN76147PBR.DTL
こういうかたちでも、ブッシュ時代のしわ寄せができているわけです。08.12.23
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