恒例!? 今年の収穫ベスト3

 では…。
「ベスト3」を選べるほど、たくさんの作品を観られたわけではないのだが……以下、過去エントリーからの採録を含む。ご了承を。


●『イントゥ・ザ・ワイルド』(ショーン・ペン監督)
 原作はノンフィクション(ジョン・クラカワー著『荒野へ』、集英社文庫)。したがってこの映画も実話にもとづいている。家庭と文明社会に嫌気がさし、名前を変え、カネやクルマも捨て、人とのつながりを断ち、1人で放浪の旅に出る主人公。ヒッチハイクやアルバイトをしながら、さまざまな人と知り合いつつも、彼が目指したのは、アラスカの荒野だった。その孤独。そして飢餓。死。ひと言でいえば、若者の「自分探し」あるいは「通過儀礼」の物語だが、人間と自然、その優しさと厳しさが、ひしひしと伝わってきた。ちなみに主人公アレックス=クリスは1968年生まれ。つまり僕と同世代。大い共感しながら観た。感慨深い。
 だが……「通過儀礼」も「自分探し」も経験しない、しようともしない人たちって、最近増えていないか。そんな人たちに、主人公の行動、この作品のメッセージを理解できるのか。
http://intothewild.jp/top.html


●『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』(デイブ・フィローニ監督)
スカイ・クロラ』(押井守監督)とこれと、どちらを選ぶべきか迷った。
 周知のとおり、『スター・ウォーズ』シリーズのスピンオフ作品。物語は、時系列的にはエピソード2とエピソード3とのあいだの出来事で、それが実写ではなく、3Dアニメで描かれている。アニメといっても、新シリーズ(エピソード1〜3)ではすでにかなりのCGが使われていたためか、違和感はあまりなかった。旧シリーズ(エピソード4〜6)のファンで新シリーズに批判的な人のなかには、CGのせいで「重厚感」がなくなった、と嘆く人がいるようだが、全編CGの本作品はどう受け取られるのだろうか。また、ジョージ・ルーカスが製作総指揮をとっているためであろう、スター・ウォーズ的世界観は充分に活かされていた。ただ、新しく登場したキャラクターの行く末が気になるような終わり方だった。もしかして、これもシリーズ化されるのだろうか。
 制作者たちは間違いなく、ジャパニメーションを意識しているだろう。アメリカには、小説でも映画(実写)でも、SFの長い歴史があるのだから、そろそろアニメでも挽回してくるかもしれない。そういう意欲を感じて、『スカイ・クロラ』ではなく(もちろん『攻殻機動隊2.0』でもなく)こちらを選んだ。(なおアニメでは、『崖の上のポニョ』(宮崎駿監督)も、作品としての質は間違いなく高いと思ったのだが、僕が楽しめる作品ではなかった。)
http://wwws.warnerbros.co.jp/clonewars/mainsite/


●『シリアの花嫁』(エラン・リクリス監督)
 来年に公開予定の作品を、今年の収穫として選ぶというのはいかがなものか……。
さくらんぼ 母ときた道』(チャン・ジャーベイ監督)とこれと、どちらをえらぶべきか迷った。
 設定と背景がやや複雑である。舞台は主にイスラエル占領下のゴラン高原。主な登場人物は、イスラム教少数派の「ドゥルーズ派」の人々。彼らの多くは「無国籍」らしい。その1人の女性、モナがシリアの男性(人気俳優のタレル)に嫁ぐ1日が描かれる。イスラエルとシリアのあいだに国交はなく、いちどシリアに渡れば、二度と故郷には戻れないという。物語は主にモナの姉アマルの視点から描かれる。家族関係の設定がまた複雑。姉妹の父ハメッドは親シリア派で、警察との折り合いが悪い。アマルとその夫アミンとのあいだには心の行き違いがある。その娘たちは微妙な年頃。長兄ハテムは、保守的な地元社会に逆らってロシア人女性と結婚。次兄マルワンは仕事で外国を飛び回っている。モナの国境越えのために働く国連職員ジャンヌ(フランス人)は、マルワンの元恋人。弟はすでにシリアに住んでいる。
 結婚当日。ささいなルール変更のために、モナは国境を越えられない。ジャンヌはその手続きに奔走するが……。官僚制の弊害が世界共通らしい。結局、モナは……。
 国境を挟んで、2つの国に住む近親者どうしがメガフォンで近況を伝え会うシーンは、アンゲロプロスの諸作品を彷彿とさせた。
 使われている言語は、アラビア語ヘブライ語のほか、英語の台詞も多い。ロシア語とフランス語も少しだけ使われる。僕はなぜか、多くの言語が飛び交う映画が昔から好きである。監督はイスラエル人(シリア人ではない!)だが、予算はフランスとドイツからも出ているようだ。
 イスラム教文化圏の習慣など、日本人には理解しにくいものもあったが、そんなわかりにくさを差し引いてもきわめて秀逸。昨年観た『ボルベール』や『サラエボの花』、今年観た『さくらんぼ 母ときた道』と同じく、“家族の時代の終わり”にふさわしい佳作であろう。
http://www.bitters.co.jp/hanayome/


○そのほか
 偶然だが、3本とも洋画になった。邦画では何が印象的だったろうか。
 今年は、僕の知人3人が作品(ドキュメンタリー)を公開した(本田孝義『船、山にのぼる』、土屋トカチ『フツーの仕事がしたい』、中尾麻伊香『よみがえる京大サイクロトロン』(これはラッシュ?))。ひいきになりそうなので、ベスト3からは外す。
『大丈夫であるように 〜Cocco 終らない旅〜』(是枝裕和監督)も秀逸だったが、僕には批評不可能。Coccoのファンにとっては、失意の再来……という解釈でいいのだろうか。印象深い作品ではあったが、ベスト3には入れない。。
 やはりドキュメンタリー映画である『空とコムローイ』(三浦淳子監督)は、日本では、というか、いわゆる先進国ではほとんど忘れられかけていること、消え行くものをゆるやかに描いた作品で、非常に印象的だったのが、映画作品としての質がいまいちということで、ベスト3からは外す。
ダークナイト』(クリストファー・ノーラン監督)や『レッドクリフ』(ジョン・ウー監督)も面白かったが、ほかの人が挙げるだろう。僕は外す。
 というわけで、来年もいい作品に出合いたいですね。
 みなさま、よいお年を。