自爆テロと卵子提供
韓国で起きた「ファン・ウソク事件」について話すと、愚かな人のなかには、「韓国の女性たちは喜んで自分から卵子を提供した」(大意)と言う人がいる。つまり問題は、論文として示された結果が「捏造」であっただけだ、と。卵子の提供については、「インフォームド・コンセント」はなされていて、そこに問題はない、と。実際、科学者やサイエンス・ライターがこの事件に言及するときには、結果が「捏造」であったことのみを問題とするのがほとんどだ。
確かに。形式的には、彼女らの行為は「自発的」なものだったかもしれない。繰り返すが、形式的には。
しかしながら、韓国の女性たちがファン教授(当時)に喜んで、「自発的」に卵子を提供したというのならば、第二次大戦中、零戦や回天での「特攻」に望んだ若者たちも「自発的」にそれを行ない、国家には何の責任もない、ということにならないか。そしていまなお続く、イスラム教徒たちによる「自爆テロ」についても、その責任はあくまでも自爆テロに志願した当事者個々人のみにある、と。
まさかね。
自爆テロ志願女性80人仕立てる、アル・カーイダ系女を逮捕
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20090205-OYT1T01009.htm?from=navr
イラク女性80人を自爆犯に勧誘 レイプ被害につけこむ
http://www.asahi.com/international/update/0206/TKY200902060268.html
イラク警察、自爆テロを行う女性志願者を80人以上リクルートしていた女を逮捕
http://www.fnn-news.com/news/headlines/articles/CONN00148814.html
少し前に、アフガニスタンの研究者が自爆テロの当事者たちの素性を調査したところ、そのうちかなりの者が、地雷などによって身体に障害を負った人たちがかなりいることがわかった、という記事を読んだ記憶がある。たぶん『毎日新聞』だったと思うが、残念ながら、保存し損ねた。
一見「自発的」な「志願」のように見える行為の折り重ねのなかにこそ(「インフォームド・コンセント」!)、権力の発動を読み取らなければ、ジャーナリストとしても社会学者としても失格だ。いや、むしろ人間として、か。09.2.8
- 作者: 粥川準二
- 出版社/メーカー: 光文社
- 発売日: 2003/01
- メディア: 新書
- 購入: 1人 クリック: 88回
- この商品を含むブログ (15件) を見る
- 作者: 池田清彦,団まりな,金子邦彦,檜垣立哉,阿形清和,鈴木誉保,大和雅之,栗原千絵子,林真理,粥川準二
- 出版社/メーカー: 青土社
- 発売日: 2008/06/27
- メディア: ムック
- クリック: 10回
- この商品を含むブログ (23件) を見る