引き際

 一昨日ぐらいに紹介するべきでしたが、エジプトでは、新型インフルエンザ対策としてブタが殺され、それに抗議した住民たちに対し、警官が発砲し、負傷者が出たそうです。

カイロ市内で3日、新型インフルエンザ対策として殺処分する豚の運搬で訪れたエジプト政府関係者に対し、反発した住民らが投石、警官隊が威嚇射撃や催涙弾の発射を行い、負傷者が出た。AFP通信などが報じた。(和田浩明「豚殺処分に300人抗議、警官隊発砲」、『毎日新聞』2009年5月4日 東京朝刊)

http://mainichi.jp/select/science/news/20090504ddm007040110000c.html

 この「負傷者」は、新型インフルエンザの被害者としてはカウントされないでしょうね。
 たくさんの動物が殺されるというのは、どこかで見た風景です。ごく最近の国内事例のときには、僕は偶然、現地の比較的近くにいました。僕はとくに「動物愛護精神」が強いわけではありませんが、なんだか気味の悪さを感じた----ウズラを殺す人間のほうに----ことを覚えています。
 感染者数=確定症例数がどんどんと増えているのは、一見、恐ろしい印象があるかもしれませんが、少し考えてみれば、その印象が錯覚であることなど誰でもすぐにわかります。確定症例数は急激に増えていても、死亡者数はそれほど増えていません。つまり分子は分母ほど大きくなっていない。実際、5月7日18時(グリニッジ標準時)時点でのWHO発表のデータで計算すれば、「致死率」は2パーセントを切っています。致死率は国ごとに区切ると、大きく変わります。最大で----といっても死亡者が出た国は2カ国しかないのですが----3.7パーセント。これはメキシコの数字ですが、日本の公衆衛生や医療のレベルが、アメリカとメキシコ、どちらに近いのかは言わずもがなです(アメリカは0.2パーセント)。
 たとえもし感染し、さらに発症しても、ほとんどはインフルエンザ治療薬を必要とせず、必要となっても効く薬がある。「疑い」でさえ、捕獲するシステムもある。それはもはや常識。
 日本のパンデミック対策の実力はよくわかりました。今回のウイルス(ブタ由来インフルエンザA/H1N1)は「弱毒」とのことですが、仮に「強毒」のウイルスが登場しても、それへの備えはそれなりにできているといっていいのではないでしょうか。
 むしろ、いま検討が必要なのは……引き際の決め時でしょう。09.5.8