生命倫理会議「臓器移植法改定に関する緊急声明」

 インフルエンザと幹細胞ばかりに気を取られていたのですが……。
 臓器移植法の改定について、生命倫理の教育・研究に携わる大学教員の集まり「生命倫理会議」が、12日、厚生労働省で記者会見を開き、「臓器移植法改定に関する緊急声明」を公表したとのことです。

 国会で臓器移植法改正論議が進むなか、京都をはじめ全国の大学で生命倫理に携わる研究者でつくる「生命倫理会議」が12日、厚生労働省内で会見、改正に反対する緊急声明を発表した。政府や国会に対して徹底的な審議を求めた。
 緊急声明には大澤真幸京都大教授や荻野美穂同志社大教授ら68人が賛同。改正をめぐっては、家族の同意で臓器提供ができ年齢制限もないA案、提供可能年齢を12歳まで引き下げるB案など3案があり、現行法の死の定義はそのままに年齢制限の撤廃などを盛り込む折衷案も議論される見込み。
 緊急声明は、脳死が科学的に立証されておらず臓器提供者の人権が侵害されていると指摘。A案と折衷案に「臓器提供の条件緩和に主眼が置かれ、人の生死の問題を扱うのに慎重さが欠けている」と強く反対している。
 会見で代表の小松美彦東京海洋大教授は「臓器移植は国民全体で議論すべきだ。納得いく審議がなければ、どんな法改正もすべきでない」と訴えた。(無署名(京都新聞)「臓器移植法改正に反対、緊急声明 京の研究者ら生命倫理会議」、『京都新聞』2009年5月12日)

http://www.kyoto-np.co.jp/article.php?mid=P2009051200204&genre=G1&area=K00

 声明文は、急遽つくられたらしい生命倫理会議のブログで読める。また、いくつかのブログに転載されている。

〔略〕しかるに、マスメディア報道によると、臓器移植法の改定が今国会での重要案件となり、しかも改定法案を厚生労働委員会で審議もせぬまま、本会議で採決する蓋然性が高い、とのことです。そこで、私たちは臓器移植法改定に関しても社会的責任を負った生命倫理に係わる研究者として、象牙の塔にこもることなく、広く社会に対して以下の見解を表明いたします。〔略〕

http://seimeirinrikaigi.blogspot.com/2009/05/blog-post.html

 僕は、脳死者からの臓器移植という行為そのものに納得できず、したがって国会で議論されている改定案、AからDのどれにも同意できないでいたので、この声明には深く共感します。
 ただ科学史家の林真理さんが、

変えることに反対しているということは、今のそれが良いと思っているということだと思われるかも知れないが、必ずしもそういうことではない。

http://tau.s16.xrea.com/blog/archives/2009/05/post_955.html

 と書いているように、上記の新聞記事の見出しはミスリーディングかも。
 しかし、グーグル・ニュースをググってみたところ、ネットで読める記事でこの声明を取り上げたものはそもそも少ないようです(が、何度かお会いしたことある若手研究者・皆吉淳平氏がブログを持ち、この件にも言及していることを偶然発見。生命倫理について書いている数少ないブロガーかも)。
 記事の少なさは、マスメディアの関心の方向性を反映しているようで残念です。この残念さは、オリコン訴訟が始まったときにも感じた記憶があります。09.5.13