明日の教材

 明日は国士舘大学で講義。以下はその教材の一部。テーマはいうまでもなくES細胞
 関西の大学では、新型インフルエンザで全学休講になっているところもあるようですが、国士舘は……注意事項が示されているだけですね。大丈夫でしょう。09.5.18

幹細胞のパイオニアノーベル賞を獲得
Stem cell pioneers scoop Nobel Prize


〔『ニューサイエンティスト』〕2007年10月8日14時44分 アンディ・コグラン


 2007年のノーベル医学・生理学賞は、遺伝子の機能をその疾患への影響を明らかにするために、マウスで特定の遺伝子を「ノックアウト」する方法を開発した2人のアメリカ人〔訳注:マリオ・カペッキ、オリバー・スミシーズ〕に授与された。
 同賞は、ウェールズにあるカーディフ大学のマーチン・エバンスMartin Evansによる、1981年の胚性幹細胞(ES細胞)の発見もまた認定した。エバンスは、マウスのES細胞が多能性であることを証明した。それらはどんな組織にも成長しうることを意味する、と。
 ヒトのES細胞は、発見されて以来、患者の臓器や組織を再生し、修復するという大きな可能性を開いてきた。しかしこの分野はまた、論争を呼んでもきた。というのは、これまでのすべてのヒトES細胞は、ヒト胚の破壊によってつくられているからだ。プロライフ〔訳注:中絶などに強く反対する生命尊重派〕運動家によって反対されている方法である。
「マーチン・エバンスは確かに、先駆者の1人です。1981年にマウスのES細胞を最初に樹立したのです」と、イギリスのタインにあるニューカッスル大学ヒト遺伝学研究所のライル・アームストロングLyle Armstrongは言う。「そのことは、未来の医療のために幹細胞生物学の重要性を正しく理解させることになります」
 エバンスは154万ドルの賞金を、イタリア生まれのマリオ・カペッキMario Capecchとイギリス生まれのオリバー・スミシーズと共有する。カペッキは、ソルトレークシティにあるユタ大学にあるハワード・ヒューズ〔研究所〕の医療研究者であり、スミシーズOliver Smithiesは、チャペルヒルにあるノースカロライナ大学〔の教授〕である。2人とも現在はアメリカ国民である。


遺伝子を「黙らせる」


 エバンスが胚性幹細胞から生きたマウスをつくりだす方法を案出してから、カペッキとスミシーズは、1981年、相同〔遺伝子〕組み換えと呼ばれるプロセスを通じて、あらかじめ細胞を遺伝的に操作する方法を知ることにより、このプロセスをさらなるステージに進めた。
 それゆえ、働かない遺伝子、もしくはヒトを含むほかの種に由来する、まったく新しい遺伝子を持つよう遺伝的に操作されたマウスをつくることができるようになったのだ。
 それ以来、このことは、特定の「黙らされたsilinced」遺伝子を持つ、何千もの「ノックアウト」マウスの作出につながってきた。このことがマウスで病気という結果になるかどうかを見るために。子宮内で胚の健康な発生に重要な遺伝子をノックアウトすることによって、カペッキは、赤ちゃんの異常の遺伝的原因を発見するためにこの技術を使った。
 最初の「ノックアウトマウス」が1989年に報告されて以来、1万〔種類〕以上がつくられた----〔この数字は〕哺乳類のゲノム全体における遺伝子のおよそ半分を網羅している。
 エバンスらは、ヒトの疾患に対応するものを持つマウスをつくるためにもこの技術を使ってきた。そのなかには、遺伝性の肺疾患である嚢胞性繊維症も含まれる。マウスは、ヒトにおける高血圧や動脈疾患にあたるものを持つよう、スミシーズによって操作された。
 ノックアウトマウスの技術はいま、どこの〔遺伝子〕変異が特定の時間、あるいは特定の細胞や臓器で活性化しうるか、という時点にまで進歩してきた。発生中の胚においても、成熟した動物においても。


予算支出の制限


「マウスにおけるジーン・ターゲティング技術の発展は、医療研究において重要な影響をもたらしてきました」とイギリスのケンブリッジ大学のステファン・オライリーStephen O'Rahillyは言う。「この技術のおかげで、私たちは、生物全体の経路における特定の遺伝子の機能を、ずっとよく理解できるようになりました。そしてそうした経路に作用する薬品が有益であろうかどうかを予想するという、偉大な能力を持つようになりました。
 ノックアウトマウス技術における大きな進歩にもかかわらず、ヒトの疾患を治療するための胚性幹細胞の開発は、アメリカでは、連邦の研究者〔国から研究予算をもらっている研究者〕らへの予算支出の制限によって、抑えられてきた。ジョージ・ブッシュ大統領はES細胞培養株の数を制限した。連邦から予算支出される研究者らはおよそ20〔株〕で〔のみ〕研究することが認められた。
 アメリカの民間企業は胚性幹細胞を研究し続けているのだが、ブッシュは、連邦から予算支出されている研究者への制限を解除するように、という圧力の拡大の下にいる。
「こうした議論にもかかわらず、胚性幹細胞がノーベル賞として認められているということを見られてうれしいです」とアームストロングは言う。「それはたぶん、ブッシュの個人的見解を変えはしないでしょうが、将来のアメリカ政府が連邦予算をES細胞研究のために解き放つことを促進するでしょう」
「カペッキ、エバンス、スミシーズに万歳、です」と、アメリカのマサチューセッツにあるアドバンスド・セル・テクノロジー社の主任科学者ボブ・ランザBob Lanzaは言う。「世界へのメッセージは大きくて、はっきりしています----幹細胞研究をめぐる大騒ぎや反対にもかかわらず、この分野は、科学と医療の発展のためにきわめて重要なものであることが認められているのだ、と」(粥川準二仮訳)

http://www.newscientist.com/article/dn12748-stem-cell-pioneers-scoop-nobel-prize.html?feedId=genetics_rss20