生殖技術と選択の幅

 今日も、進行中の書きものと関連して……。

〔略〕53か国、1563の不妊治療院で行った調査によると、データがそろっているいちばん最近の2002年では、生殖介助術(ART)により誕生した赤ちゃんは世界で21万9000人から24万6000人と推定される。世界でARTが行われた回数は、2年前の2000年から25%も増加しており、体外受精や卵細胞質内精子注入法による生児出生率も平均で「5回に1回以上」と上昇している。〔略〕(無署名(AFP)「生殖介助術で産まれる子ども、世界で年間25万人」、AFP通信、2009年05月28日 12:28)

http://www.afpbb.com/article/life-culture/health/2606421/4197185

「生殖介助術」とあるのは、日本では「生殖補助技術」とか「生殖補助医療」と呼ばれているものですね。行政では後者が使われています。「Technology」が「医療」と訳されるのは、意訳の範囲内でしょうか。
 それはともかく、生殖技術の統計分析というのは、1国でも難しいはずです。現にこの記事でも「データがそろっているいちばん最近の2002年では」とあるように、この調査が示したのは、すでに7年前の数値です。いまはたぶんもっと増えているでしょう。
 しかしこの記事、レポートが掲載された雑誌名は書いているけど、誰が中心になってまとめたのかを書いていません。
『ロイター』はちゃんと「ジャック・ドゥ・モウゾン医師」と書いています。


Assisted reproduction rates increasing worldwide
http://www.reuters.com/article/healthNews/idUSTRE5536KG20090604


 情報源もたどれました。


World Collaborative Report on Assisted Reproductive Technology, 2002
http://humrep.oxfordjournals.org/cgi/content/full/dep098


 気になるのは、安全性と成功率です。体外受精をはじめとする生殖技術はもはや日常的なものになり始めていますが、排卵誘発剤のリスクや効率の悪さという問題は、少しは改善されたのでしょうか。いずれじっくり読みましょう。(追記:効率に関しては、やや上昇しているようです。)
 一方、日本では、「不妊治療」に特化した医療ローンが創立されたそうです。

〔略〕不妊治療限定のローンは国内で初めて。10組に1組が不妊カップルとされ、高額な医療費を理由に治療を断念する患者が多い点に目を付けた。〔略〕(河内敏康「不妊治療:初のローン 300万円まで」、『毎日新聞』2009年5月20日 東京朝刊)

http://mainichi.jp/life/edu/news/20090520ddm012040075000c.html

 子どもをほしいカップルにとっては朗報といえば朗報ともいえますが、一方で、金銭的な問題がクリアされるということにより、「あきらめて」別の幸福を求めるという選択肢はむしろ選ばれにくくなる、つまり選択の幅は狭くなる、とも考えられます。
 これもまた、フーコー的生-権力の現れといえるでしょう。09.6.13


追記:
 柘植先生が体外受精における卵子提供について解説しています。


不妊治療のための卵子提供をどう考えるか
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20090526/155420/