恒例 今年の収穫ベスト3

というわけで、いつものように順不同で。テキストは再掲のものを含みます。


●『犬と猫と人間と』(飯田基晴監督)
http://www.inunekoningen.com/
飼い主から捨てられ、処分、すなわち殺されるイヌやネコ。日本はペット大国ではあるが、ペット天国ではない、と映画は言う。この作品はある猫好きの老婦人と飯田監督との出会いから始まり、カメラはイヌやネコたちが捨てられる現場を追う。殺処分----やわずかな譲渡----が行なわれる、各地のいわゆる「愛護センター」。民間の愛護団体。捨てられたネコとホームレスたちが寄り添うように暮らす多摩川河川敷。かつて「犬捨て山」と呼ばれた場所。「崖っぷち犬」騒動の街。そして動物福祉先進国、イギリス。この映画の主人公はもちろん捨てられたイヌやネコなのだが、捨てられた人間たちの姿も、わずかだがスクリーンに登場するということは、僕だけでも書き留めておこう。


●『サマーウォーズ』(細田守監督)
http://s-wars.jp/
監督は、あの『時をかける少女』をアニメでリメイクした人。話題作の次はただでさえ難しい。しかも『時かけ』は“原作あり”の“リメイク”だったが、今回は正真正銘の映画オリジナルである。『時かけ』と同じく、誰でも心の中に描いているのだが、ほんとは誰も経験していない、文字通り夢のような青春物語。ミクシィセカンドライフを彷彿とさせる電脳世界での事件に、“家族の絆”で立ち向かうというストーリーは、荒唐無稽といえば荒唐無稽だが、家族の時代の終わりだからこそ、つくられるべき作品であったと思う。同じく家族を題材とした『千年の祈り』(ウェイン・ワン監督)と、どちらにするか迷った。ところで、電脳世界での事件といえば、サイバーパンクの元祖『ニューロマンサー』(ウィリアム・ギブスン著、ハヤカワ文庫)をどうしても思い出してしまうが、それに触発された映画作品がいくつもつくられているのに、本家本元はまだ映画になっていない。しばらく前に、何度目かの映画化の噂が流れたが、金融危機でお蔵入りになったのだろうか。映画版『ニューロマンサー』のスタッフは、『サマーウォーズ』を観るべきだ。少なくとも一部は『サマーウォーズ』を超えない限り、いまさら映画化することの意味はない。


●『リミッツ・オブ・コントロール』(ジム・ジャームッシュ監督)
http://loc-movie.jp/index.html
前作『ブロークン・フラワーズ』はいまいちだったので、あまり期待せずに観たところ、大当たりだった。ジャームッシュの過去の作品のなかでは、『ゴースト・ドッグ』の雰囲気に近いかも。スペインが舞台ということもあり、アルモドバルの諸作品を彷彿とさせたりもする。このごろの映画は「誰にでもわかる」、「誰にでもウケる」ようにつくられているものが多いが、この作品は観客に対し、かなりの解釈を強いる。登場人物の行動や台詞は、1つのセットを少しずつ変化させながら何度も繰り返す。まるで現代音楽、あるいはポストロックのように。設定は不明確で、ウィリアム・バロウズから借用したというタイトルも意味深。ダメな人にはダメかもしれないが、僕のストライクゾーンには入った。


○総評
今年は暮れになってから、タランティーノイングロリアス・バスターズ』、エメリッヒ『2012』、マン『パブリック・エネミーズ』、ムーア『キャピタリズム マネーは踊る』、キャメロン『アバター』と、いわゆる巨匠たちの大作が続いた。僕はそれぞれ、それなりに楽しんだり、がっかりしたりした。そういえば、『宇宙戦艦ヤマト 復活編』(西崎義展監督)なんていう悪夢みたいなものも観てしまった。ジブリプロダクションI.G.、それに『サマーウォーズ』のマッドハウスといった、世界に誇れるクリエーターたちがこれまで時間をかけて築き上げてきた日本アニメ映画史に泥を塗るような作品だった。
それで思い出したことがある。
いま世界ではお金の流れがぴたりととまっていて、映画についても、スポンサーも客も、カネ払いを渋っているのは周知の通り。その結果が、リメイクものと続編ものと「原作あり」ものと「バカでもわかるようにつくられた」ものの乱発。洋画でも邦画でも。僕はその傾向にうんざりしている。
しかしながら、こうした現状はある意味チャンスでもあって、予算に限界があるからこそ、観客が観るべき作品を慎重に選んでいるからこそ、それをアイディアや情熱で乗り越える作品の誕生を期待してもいる。邦画では、ベスト3には入れなかったが、『曲がれ!スプーン』(本広克行監督)はなかなか健闘していたと思う。本広監督の『サマータイムマシン・ブルース』、『UDON』、それに本作から成る“香川三部作”は、後世になってから再評価されるのではなかろうか。


来年も素敵な作品に出合いたいものです。みなさま、よいお年を。09.12.31