国保死亡例と国民皆保険制度

 今年も民医連が、国保を支払えず医療機関への受診が遅れために亡くなったという「国保死亡事例」の調査をまとめました。

全日本民主医療機関連合会(民医連)は11日、国民健康保険の保険料が支払えなかったことなどによって病院に通えず死亡した人が、09年の1年間に少なくとも全国で33人いたと発表した。「無保険」状態は全体の約7割に達し前年と比べほぼ倍増。保険証があるにもかかわらず、自己負担が高額なことから受診せずに死亡した人も10人いた。(河内敏康「国保:払えず死亡、33人 7割が無保険」、『毎日新聞』2010年3月12日 東京朝刊)

http://mainichi.jp/select/science/news/20100312ddm012040176000c.html

 経済的理由で医療を受けることができずに亡くなった人が、少なくとも43人いた、ということです。
 今回の調査のポイントは、保険料(健保税)を払えなかった人だけでなく、保険料は払えたけど自己負担分を払えなかったという人も犠牲になっている、という実情も浮かび上がってきたことでしょう。
「43人」という数字を、国民皆保険制度が整っている先進国であるにもかからわらず、43人「も」亡くなっている、と理解すべきか、それとも、国民皆保険制度のおかげで43人で「済んでいる」、と理解すべきか。微妙なところです。
 日本とアメリカ以外の先進国では、医療費の自己負担はゼロという国は少なくありません。そうした国々では、こうした死亡者は「0人」のはずです。少なくとも、理屈の上では。
 一方、僕はこれまでに、アメリカでは年間2万人もの人が医療を受けられずに死んでいる、という記述を何度か読んだことがあります。2万人? 全人口の0.06パーセント? もし日本で、同じ比率で死亡者が出たら、8000人!? この計算が正しいとすれば、日本での「43人」という数字は、国民皆保険制度のおかげで、43人で「済んでいる」とみなすべきかもしれません。
 しかしながら、アメリカの「年間2万人」という数字にも、疑問の声があるようです。
 
Myth Diagnosis
http://www.theatlantic.com/magazine/archive/2010/03/myth-diagnosis/7905/


 この数字が下方修正されるとしても、数十人、ということはないでしょう。それとも、数十人になってしまうのでしょうか。 
 タイミングよく、『日経メディカルオンライン』(と『日経ビジネスオンライン』)が、「国民皆保険制度は堅持すべきか?」と読者に疑問を投げかけています。
 
国民皆保険制度は堅持すべき?
http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/mem/pub/blog/kimura/201003/514368.html


 この記事の書き手は、日本の国民皆保険制度の現状には何らかの見直しが必要であるにせよ、基本的には堅持すべき、という自分の意見を提示したうえで、読者の見解を求めています。
 僕はこれまで、少なくない医療者がまるで、貧乏人は死ね、と言わんばかりの意見を口にするのを耳にしたことがあります。彼らは国民皆保険制度などなくして、支払い能力のある患者だけを診たいのかもしれません。それが医療者の本音であり、最大公約数的な見解なのでしょうか。
 というわけで、どういう結果が出るのか気になります。ちょっと怖いのですが。10.3.12