鍼の鎮痛機序?

 幸か不幸か(?)、日本のメディアでは取り上げられていないようですが、5月30日、アメリカの研究者たちがマウスを使った動物実験で、鍼がもたらす鎮痛効果の作用機序の一部を解明したと発表しました。論文は『ネイチャー・ニューロサイエンス』オンライン版で発表されたようです。
 
Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture
http://www.nature.com/neuro/journal/vaop/ncurrent/full/nn.2562.html


 ある種の人々はこの発表に飛びついて、「鍼が効く証拠だ!」と騒ぐかもしれませんが、僕は同調しません。英語圏のニュースメディア系ブログが見出しに込めたアイロニーに同意します。たとえば――「鍼が痛みを癒す方法――たぶん」(『ニューサイエンティスト』の「ショート・シャープ・サイエンス」6月1日付)、「鍼が「マウスで効く」」(『ネイチャー』の「グレート・ビヨンド」5月30日付)。
 周知の通り、サイモン・シンとエツァート・エルンストの共著書『代替医療のトリック』は、ほぼ全面的に鍼の効果を否定しています。エルンストは代替医療の専門家として、この研究についても、各メディアのコメント取材に応じているようです。『ネイチャー』の「グレート・ビヨンド」もまた(ブログであるにもかかわらず)エルンストを取材したらしく、彼のコメントを紹介しています。

〔前略〕しかしこの研究は、鍼が実際に効果的な治療かどうかを示してはいない、と彼は付け加える。「しっかりとコントロールされた臨床試験のほとんどが示しているように、もし臨床的効果がプラセボ効果を超えないのならば、そのメカニズムは重要ではなく、本当のメカニズムはプラセボです」と彼は言う。

http://blogs.nature.com/news/thegreatbeyond/2010/05/acupuncture_works_in_mice.html

 昨年、「ノルディック・コクラン・センター」という研究グループが鍼の鎮痛効果について体系的レビューをまとめたのですが、彼らの判断も慎重です。

結論:鍼にはわずかな鎮痛効果が認められたが、それは臨床的関連性を欠いており、バイアスから明確に区別されえない。経穴、あるいはどこであれ、鍼を打つことが、治療という儀式の心理的効果とは別に疼痛を軽減するかどうかは明らかではない。

http://www.bmj.com/cgi/content/abstract/338/jan27_2/a3115

 もしあなたがたとえば腰痛に苦しんでいて、レクリエーションではなく、ほんとうの治療と回復を心から望んでいるのだとしたら、僕は、鍼を勧めません。ついでながら灸やカイロプラクティックもお勧めしません。僕は別にいわゆる代替医療だけを嫌っているわけではありません。牽引、電気、トリガーポイントブロックなどは保険収載されていますが、僕はそれらもお勧めしません。10.6.6

代替医療のトリック

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