改定臓器移植法施行から2日
たまにはまじめに(?)映画以外のことも書こう。
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去る17日、改定臓器移植法が施行された。
先日、生命倫理会議が主催するシンポジウムを傍聴したのだが、そのときも議論になり、僕も率直にいってよくわからなかったことは、今回の改定によって、はたして「脳死は人の死」になったのか、ということ。
報道レベルでは、昨年7月の改定法成立時には、「脳死は人の死」になったとさかんに説明された。たとえば、
改正臓器移植法の成立により、「脳死は人の死」を前提に、本人の意思がわからなくても臓器提供が可能になったことを受け、朝日新聞が全国世論調査(電話)を実施したところ、「脳死は人の死」とすることへの賛成は40%、反対は39%で、意見が二分されることがわかった。〔略〕(大野博「「脳死は死」賛否二分、改正移植法 朝日新聞世論調査」、『朝日新聞』2009年7月22日21時34分)
http://www.asahi.com/special/zokiishoku/TKY200907220383.html
というように。
ところが1年後の最近では、このような表現は減っている。たとえば同じ『朝日新聞』は、
〔略〕臓器移植法では、臓器提供の場合だけ脳死を「人の死」とし、死の位置づけは改正法施行後も変わらないと、厚生労働省は説明する。〔略〕(五十嵐道子「臓器移植 あなたの隣に:6 情報編 「提供する、しない」話すのが重要」、『朝日新聞』2010年7月11日)
http://www.asahi.com/health/ikiru/TKY201007110166.html
と解説する。
厚労省の説明「健発0114第1号」を直に読んでみよう。まずは問題の第6条第2項について。
(2)「脳死した者の身体」の定義の改正(第6条第2項関係)
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T100114H0010.pdf
脳死した者の身体の定義規定から、「その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって」との文言を削除すること。
第6条第2項とは、
前項に規定する「脳死した者の身体」とは、その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定されたものの身体をいう。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/H09/H09HO104.html
というもので、ここから「その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって」を削り、さらに改定法で述べられているように、この条文中の「もの」を「者」とすると、
前項に規定する「脳死した者の身体」とは、脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の身体をいう。
となる。
これを普通に読めば、臓器移植時に限らず、「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の身体」は、「脳死した者の身体」とみなされる、ということだけは、かろうじてわかる。脳死の条件を定義付けしただけのように読めなくもないが、「脳死」という言葉には、「死」という一文字が含まれている。このことはいまさらながら重要ではなかろうか。だとしたら、「その身体から〜」が削除されたことにより、いついかなるときでも、「脳幹を含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者」は「脳死した者」、つまり死んだ者とみなせられうる、と解釈できなくもない。
しかし厚労省は前述の「健発」で
〔略〕改正法に係る国会審議の過程において、「これをもって脳死を一律に人の死と定義したのではないか」との論議があったところ。この点については、別添のとおり、参議院本会議における改正法の趣旨説明がなされており、その要旨は、脳死が人の死であるのは、改正後においても改正前と同様、臓器移植に関する場合だけであり、一般の医療現場で一律に脳死を人の死とするものではない、というものであるので、十分御留意の上、関係者への周知、広報に当たっては、配意をお願いしたい〔略〕
と説明している。
釈然としない。
シンポジウムでは、厚労省の検討作業を傍聴し続けているという川見公子さんが、委員会での議論においても混乱がある、と話した。
最も正確に理解していなければならないはずの人たちのあいだでさえ消えない混乱を抱えたまま、臓器移植法は改定、施行され、本人意思が不明な場合でも家族の承諾だけで、0歳児から脳死判定と臓器摘出が可能になった、ということである。10.7.19
追伸;
僕が大きな誤解をしている可能性もあります。お気づきの点がありましたら、ご指摘ください。
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