関西で幹細胞について議論する前に

 日本のニュースサイトは、記事をアップしている期間があまりに短い。メモだけでもしておこう。
 先日、日本の研究者がiPS細胞とキメラ技術を使って、マウスの体内でラットの膵臓をつくることに成功したことを紹介した。この研究が将来目標としていることは、ヒトの臓器を動物の体内でつくることである。
 紹介する順序が逆になってしまったが、研究者たちは、すでにそれに向けて動き出している。
 いまネット上で読める記事は『時事通信』だけだろうか。

 ヒトの人工多能性幹(iPS)細胞をブタの受精卵(胚=はい)に移植し、試験管内で短期間だけ培養する研究計画が28日、文部科学省の専門委員会で承認された。東京大医科学研究所の中内啓光教授らが、将来、ブタの体内でヒトのiPS細胞から膵臓(すいぞう)を作り、糖尿病患者に移植する再生医療を実現するため、基礎研究として申請した。
 ヒトの細胞が交ざった動物の胚は「動物性集合胚」と呼ばれ、作製の申請と承認は、文科省が2001年に「特定胚の指針」を施行してから初めて。万一、ヒトや動物の胎内に移植すると、全身にヒトとブタの細胞が混在する奇妙な動物が誕生しかねないため、胎内移植は禁止されている。

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201007/2010072801038

文部科学省の専門委員会」というのは、「科学技術・学術審議会 生命倫理・安全部会特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会(第77回)」のことらしい。
「動物性集合胚」というのは、日本独特の行政用語で、要するに動物の胚に人間の細胞を混ぜたキメラ胚のことだ。

動物の受精卵(胚=はい)にヒトの細胞を移植して作る胚。クローン技術規制法に基づく「特定胚の指針」により、作製には文部科学省の承認が必要。ヒトと動物の細胞が交ざった個体の誕生を防ぐため、取扱期間は14日以内に制限され、ヒトや動物の胎内への移植は禁止されている。違反した場合は刑罰が科される。

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201007/2010072801039

毎日新聞』の「余録」というコラムは、この件について、「少し前ならもっと騒がれたかもしれない」と書く。

〔略〕01年の「特定胚指針」で白熱の議論の末に作成が認められた。指針に基づき、いつ誰が届け出るか、当初は注目の的だった〔略〕臓器作りの研究が動き出した一方で、脳死移植の実情も変わりつつある。臓器移植法が改正され家族の同意で臓器提供できるようになって以来、立て続けに提供者が現れている。これを「当たり前」と感じるか、「予想以上」と感じるか、見方は分かれる〔略〕動物性集合胚の胎内移植は今は禁止されている。移植用臓器の量産は簡単には実現しない。地道に脳死移植を進めるとすれば何が大事か。情報の一点集中と不透明さが不信につながるようなことはぜひ避けたい。

http://mainichi.jp/select/opinion/yoroku/news/20100912k0000m070103000c.html

 時間的な推移を見れば、動物での実験の成功が報告されるよりも先に、ヒト細胞を使う実験計画が認められた、ということになるが……本来は、順番が逆ではなかろうか(僕の紹介も逆になってしまったが(苦笑))。研究を申請した研究者たちも文科省の委員会の委員たちも、先を見越して、ということだったのだと思うが、この順序はどうしても気になる。
 ということで、明日、関西で幹細胞について議論する(だじゃれをいっている場合ではない)。