Cocco 「エメラルド」 Tour 2010

Coccoのライブ「「エメラルド」Tour 2010」のチケットを取れなくて悔しい思いをしていた。『きらきら』のツアーは武道館だったのに、なんでZepp Tokyoなんて狭いところでやるんだよッ、と悪態をつきながら……。ダフ屋やオークションには抵抗があるので躊躇していたのだが、とてつもない幸運でチケットを入手でき、観ることができた。しかも入場整理番号32! もちろん最前列(スタンディング)。右斜め前すぐにCocco、正面に大村達身。ほとんど関係者席みたいだった。オークションとかではとんでもない高値が付いてもいいはずの位置だが、ほとんど定価で入手できた(定価でいい、といわれたのだが、気持ちだけ足して渡した。Mさん、ありがとうございます)。


6時開場だったので、開演までの1時間、立ったまま読書して過ごす。こういう時間のつぶし方は、toeのライブで慣れた。(誰ですか、「無理しちゃって」なんて、言っているのは?(笑))
ふと、僕の右側で立っていた女性2人の会話が聞こえた。ですます、でしゃべっている。どうも初対面らしい。そういえば、僕も若い頃、ライブのとき早めに開場に行き、見ず知らずの人と話したことがあったっけ(遠い目)。2人のうち1人は某県から3時間かけて東京までやってきて、グッズをすべて買ったという。「Raining」に涙した少女たちも、もう大人になったんだな〜、よしよし……とアニキ面する僕の右耳。


Coccoのライブといえば、3年前、『きらきら』のツアー・ファイナルを武道館で観たことを思いだす。痛みをこらえながら……。僕はその後、結局、2回に渡って故郷で療養生活を送ることになるのだが、その1回目(2008年2〜3月)には、当時使っていた20GのiPodで、Cocco(やクラムボンtoeモグワイ)を繰り返し聴きながら、実家からクリニックまでの道のりを往復したり、運動療法の一環と称してニュータウンを歩き回ったり……。
僕の闘病期間とほぼ重なる時期に、Coccoもまた、もがいていたことを知ったのは、ドキュメンタリー映画『大丈夫であるように〜Cocco終わらない旅〜』のラストを観たときのこと。あまり晴れやかではない気分で、渋谷のミニシアターを出たことをよく覚えている。
その後、2回目の療養期間のときには20GのiPodはすでに壊れ、僕は音楽なしで同じようにニュータウンを彷徨した。


今回は、60分スペシャルライブ、ということで、新譜『エメラルド』からの選曲ばかりで、古い曲はほとんどやらず、せいぜい「強く儚い者たち」ぐらいかな……と思っていたのだが、その予想は、いい意味でみごとに裏切られた。
1曲目の「ニライカナイ」は予想通りだった。2曲目のイントロを聴いたときには耳を疑った。初期の非シングル曲、いわゆるアルバム収録曲で、もちろんベスト盤にも収録されていない曲だったからだ。僕がCoccoを聴くようになったのは、ちょっと遅めなので、初期の曲は生ではもう聴けないだろう、と思っていた。ところが……ええッ、と驚いてしまうような曲が次々と。
以下、某SNS内のコミュニティでアップされていたセットリストを示す。正確かどうかはわからないが、僕の記憶よりは正しいだろう。

1.ニライカナイ
2.首。
3.強く儚い者たち
4.Light up
5.十三夜
6.カウントダウン
7.4x4
8.クロッカス
9.のばら
10.カラハーイ
11.あたらしいうた
12.焼け野が原
13.樹海の糸
14.三村エレジー
15.Spring around
16.Stardust
17.眠れる森の王子様〜春・夏・秋・冬〜
18.蝶の舞う
19.絹ずれ〜島言葉〜
20.玻璃の花

http://mixi.jp/view_bbs.pl?comm_id=394&page=2&id=57526086

ご覧の通り、60分のミニライブではなかった。途中何度も、これが最後の曲かな、と思った瞬間があったが、そのたびに次の曲が続いた。結局、2時間近くやったと思う。おしゃべりは少なめで、その分歌うことに力を入れたようだ。Coccoはほとんどの曲で、左足を前にしてややかがみ、短距離走のスタート直前のようなスタイルで、首を上下に揺り動かしながら歌った。激しく。『きらきら』のときとはまったく違う。
このセットリストからは、新しい曲をやりたかったこと(当然だ)、昔からのファンの期待にも応えたかったことがよくわかる。そしてある時期の曲がすっぽりと抜けていることも。しかしそれにしても、まさか「首。」や「眠れる森の王子様」を生で聴くことができるとは……。
渋谷陽一氏も書いているように、ここ数年の彼女の苦闘を思えば、大成功といっていいし、もちろん僕も言葉では言い尽くせないほど感動した。
ツアー初日だというのに、Coccoは最後の曲を歌い終えると、ドラムセット前にしゃがんで泣き崩れた。
Coccoは日本人が忘れかけている感情を、忘れないで、いや忘れられないで歌い続けている人なんだと思う。悲しむことも泣き叫ぶことも忘れかけているこの国で、彼女の歌声は、どのように響きわたるのだろうか――。

エメラルド(初回限定盤)(DVD付)

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