『猿の惑星 ジェネシス』

夜、いつものシネコンで『猿の惑星 ジェネシス』を観る。わざわざ旧シリーズ全5作とティム・バートン版までDVDで観て「予習」したのだから、面白くないと困る。しかし映画って、期待すると…ま、いいか。
舞台は現代。普通の世界である。バイオ企業で働く主人公は、アルツハイマー病の遺伝子治療チンパンジーを使って実験している。ある実験が著しく成功し、ある個体の認知機能が驚異的に向上する。生命倫理分野でいういわゆるエンハンスメント的な効果があったようだ。主人公は研究を進めようとするが、プレゼンの最中にそのチンパンジーが暴れ出し、射殺されてしまう。しかしこのチンパンジーは妊娠していた。主人公は生まれたチンパンジーを家に連れ帰る。そのチンパンジーは射殺された母親並みの知能を生まれつき持っていることがわかり、主人公は彼に「シーザー」と名づけ、研究を自宅で続ける。(遺伝子治療、いや遺伝子エンハンスメントをされたチンパンジーから生まれた子どもが、親に組み込まれた遺伝子を生まれつき持つというのは、獲得形質の遺伝なんだろうか、とか思ったのだが、そういうツッコミはキリがないのでやめておこう。)そして主人公はアルツハイマーの進んでいた自分の父に…。
「シーザー」という名前は、全シリーズで、現代(といっても1970年代)にタイムスリップしたコーネリアスジーラとの間に生まれ、人間たちに反乱を起こし、地球を「猿の惑星」に変えていくシーザーを踏まえたものであろう。続編、リメイクものではこうした前作、前シリーズへのオマージュ的な要素が必ず入るものだが、そのほかには、シーザーが人間たちの会話を聞きながら、自由の女神の模型をいじくっているシーンがあった。また、この作品ではサルたちはあまりしゃべらないのだが、シーザーがいちばん最初に口にする台詞は「ノー」だった。これは確か旧シリーズではタブーか何かになっている言葉だったと思うが、残念ながら僕の記憶があやふやである。人種問題は少なくとも僕の目にはあまり目立たなかった。主人公が働いているバイオ企業の重役が黒人だったり、彼の恋人になる女性獣医がインド系だったりするのは、ちょっとわざとらしいが、気になるほどではない。
物語は、シーザーが猿の軍団(?)を率いて、彼らを殺そうとする警察隊との戦いに勝ち、森に自分たちの居場所を定めるところで終わる。遺伝子治療はウイルスをベクター(遺伝子の運び屋)として使うらしいのだが、それが次作への伏線となっている。その内容もある程度読めてしまうのだが、書かないでおこう。とにかく「猿の惑星」というタイトルの映画でありながら、まだ地球は「人間の惑星」のままである。これからどのような展開があるのか、楽しみといえば楽しみだが、期待のしすぎも禁物だろう。字幕は戸田奈津子氏だったけど、監修が松沢哲郎先生だったのは笑えた。笑うところじゃないような気もするが。