『モバイルハウスのつくりかた』

午後、新橋にあるTCC試写室で、本田孝義監督の新作『モバイルハウスのつくりかた』 の試写を観る。本田さんとはずいぶん昔にあるところで知り合い、ときどきお会いする。『科学者として』という映画が公開されたときには、公開記念イベントに出演したこともある。また、僕と斉藤勝司さんがやっている「映画で語るサイエンス」に来てもらったこともある。試写会場では、予想通り、斉藤さんと鉢合わせした。映画が終わるとすごい強風で、電車の動きがあやしかったのだが、斉藤さんのクルマで送ってもらえてラッキーw。
それはともかく、さてこの映画は、建築家で作家の坂口恭平氏が「モバイルハウス」を制作する過程を追ったドキュメンタリー。坂口氏はその世界では有名な人らしいのだが、僕は不勉強にも存じ上げない。かなり若い人である。
坂口氏は「多摩川のロビンソン」と呼ばれる路上生活者の男性の手ほどきを受けて、「モバイルハウス」を製作する。モバイルハウスとは、ようするに、移動可能な家、のことであろう。映画の中で彼がつくったモバイルハウスは、広さ二畳ほど、折りたたみ式ベッドと小さな机があり、ソーラーパネルで電気も使える。材料は、ホームセンターで買ったベニヤ板など。合計2万6000円とか。この小屋がモバイルハウスと呼ばれる所以は、4つの小さな車輪が付いていること。彼はそれを多摩川の土手でつくり、吉祥寺の駐車場に設置する。その移動の前日に大震災が起こったという。映画はその過程を通じて、生きること、住むことの根源を問い詰める……と、紹介したいところなのだが、残念ながら、そう簡単にまとめることはできない。たとえば車輪は4つ付いているのだが、移動を前提とするならば、前方の2つは方向を変えられるように付けるべきだが、そうはなっていない。方向転換はしにくいはずである。実際、坂口氏らが完成したモバイルハウスを吉祥寺に移動させるときには、彼らはあっさりとトラックを使った。僕はゆっくりとモバイルハウスを引くのかと思っていたので、拍子抜けした。また家財道具が入ったら、その重みで、ますます動きにくくなるはずだ。「ハウス」というからには、そこで生活できなければ意味がないはずだが、その過程はいっさい描かれない。吉祥寺にモバイルハウスを移動させた後、坂口氏は放射線を恐れて故郷の熊本に移住し、そこで廃屋を改装した「ゼロセンター」を設立する。その経緯を少しだけ紹介して映画は終わる。
坂口氏は映画の中で、消費経済社会を批判する発言を繰り返すのだが、僕から見ると、それは徹底されているとはいえない。彼の手元にはiPhoneがあるが、いうまでもなくiPhoneは、たとえ中古を安く、もしくは無料で手に入れられたとしてもランニングコストがかかるものである。彼には妻子がいるらしいのだが、彼の生活はほとんど描かれない。ハウス=家と生活は切っても切り離せないはずだが。モバイルハウスに家族3人で暮らすことは不可能であろう。
もしかすると、こうしたことは、坂口氏の著作には書かれているかもしれないが、映画ではわからない。僕は映画を見ながら、「どこまで本気?」と何度も思った。そして……おそらく僕と同じように思う人がたくさんいるであろうことなど、本田監督は絶対に予想しているはずである。断言するが、本田監督は頭がいい人である。彼には間違いなく、何か意図がある。僕がこうして「炎上マーケティング」に、自発的に協力してしまう(笑)ことさえ計算通りであろう。その意図が何なのかはわからない。もう少し様子を見ることにしよう。
本田さん、完成おめでとう!