「子ども時代の貧困が大人の遺伝子に印を残す」

旧聞に属しますが、4月1日、ネットラジオJCcast」の第52回が公開されました。収録されたのはさらに遡り、1月25日です。司会は諸事情で、不肖・粥川が勤めています。お聴きいただければ幸いです。僕は原発事故について、山下君はタミフルについて、赤木君はスマイリー・キクチさんの手記について、話題提供しています。


第52回 原発事故、タミフルスマイリーキクチ
http://journalism.jp/podcast/2012/04/52.html


さて昨夜も「JCcast」の収録でした。みなそれぞれの興味で話題提供しました。その一つに「健康格差とエピジェネティクス」がありました。僕もツイッターで話題にしたことがあります。収録で直接的に扱われたのは別の研究なのですが、ここでは僕が見つけたものを紹介します。

子ども時代の貧困が大人の遺伝子に印を残す
16:30 2011年10月26日 アンディ・コグラン〔『ニューサイエンティスト』〕


 遺伝子は、子どもが豊かな家庭か貧しい家庭かどちらで育ったかによって、まったく異なるかたちに人生の初期段階でリセットされうる、という記念碑的な研究が示された。
 リッチな家の子どもも貧しい家の子どもも同じ遺伝子セットを持っているにもかかわらず、家庭の困窮の度合いが、どの遺伝子の組み合わせが、エピジェネティクスと呼ばれるプロセスを通じてスイッチを入れられるのか、黙らせられるのかを決定づける――おそらく生存機会を最大化するために。
「それらは防御的な反応であり、その見返りは脅迫的な子ども時代を生き延びることでしょう」とイギリスのブリストル大学のマーカス・ペンブリーはいう。ペンブリーは共著者であり、ロンドン大学子ども医療研究所で研究している。
 その報いは、より貧しい人々を、心疾患や糖尿病、がんなどにかかりやすくする遺伝子の活性化であるに違いない。このことによって、なぜ貧しい人々の寿命はしばしば短いのかも説明できるかもしれない。またエピジェネティックな変化は、最近、統合失調症双極性障害のような精神病にかかわる病態に結び付けられている。


持つ者と持たざる者


 ペンブリーは、1958年に生まれた3000人の集団のなかから40人の男性を選んだ。その半分はリッチな家に生まれ、もう半分は貧しい家に生まれた。私たちは社会経済的な地位の頂上と底辺の20%から被験者を選びました。そうすることで両極端な事例を得られたのです」とペンブリーはいう。
 研究チームは男性たちが45歳のときに血液サンプルを採取し、エピジェネティックな変化を調べた。彼らは個々の遺伝子を黙らせたり、活性化させたりする化学的マーキングを探した。メチル化された遺伝子――ある段階で余分なメチル基の付いた遺伝子――は、スイッチがオフにされる傾向があり、一方で、脱メチル化されたグループ――メチル基を失っているもの――は、活性化される傾向にあった。
 遺伝子をオンにしたりオフにしたりする、プロモーター領域と呼ばれるDNAの広がりに着目して、同チームは、ゲノム上の2万以上の場所を調べた。彼らは、男性たちの子ども時代の家がリッチか貧しいかによって異なるパターンを見出した。
 そのパターンは、2つのグループの間で、その場所のほぼ3分の1で異なった。さらにいうと、メチレーションのレベルは、男性が貧しい家の出身だと1252カ所で劇的に異なった。しかしリッチなバックグラウンドの者ではわずか545カ所だった。
「このことにより、大人のDNAのエピジェネティックな変化は、人生の初期段階に由来することがわかります」とペンブリーはいう。(以下略)

http://www.newscientist.com/article/dn20255-childhood-poverty-leaves-its-mark-on-adult-genetics.html

健康格差論といえば、これまではずっと疫学が主役でしたが、この研究においては、分子生物学、しかもエピジェネティクスが貢献していることに新しさがあると思われます。
さて、この知見はどのように活かされるのでしょう? いつか「健康格差をなくすクスリ」が開発されるでしょうか?