映画の日(『希望の国』など)

本日は「映画の日」ということで、4本も映画を観てしまった。


まず新宿ピカデリーにて『希望の国』(園子温監督)。周知の通り、架空の「長島県」という地域で起きた原発事故に直面した人々を描いている。僕は3.11をモデルにしたフィクションかと思い込んでいたのだが、そうではなく、途中何度か「福島では…だった」という台詞があるように、3.11後の近未来が舞台らしい。しかしそれにしても、地震津波原発事故→避難→避難先でも問題、という出来事の流れは3.11そのものとしか思えない(実際、ちらっとだが「楢葉」という地名が垣間見える。福島でロケしたのだろうか)。
また、どうしても先日試写で観た『おだやかな日常』(内田伸輝監督)と比べずにはいられなかった。『希望の国』では、ある女性が避難先で妊娠し、そこでもわずかに検出される放射能に怯える姿が描かれる。その様子は『穏やかな日常』の主人公2人(東京在住)に似ている。彼女は妊娠を知って産婦人科から帰る途中、マスクなどを買い込む。夫が帰ると、彼女は室内でも防護服に身を固めているのだが、その姿は滑稽に見えなくもない。実際、劇場ではクスっと笑い声が聞こえた。医師は彼女がいない場面で、夫に「放射能に関する恐ろしい事実」(パンフレットの表現)を告げる。と同時に医師は、彼女が「放射能恐怖症」である、とも告げる。2人はさらに遠くに逃げることを決め、いまなお被災地に残る夫の父母の元に向かう…のだが、僕が気になったのはその後のシーンだ。
彼女はクルマで移動中、窓を開けて、防護服のマスクを取ってしまう。そしてその次の浜辺のシーンでは、防護服を着ていない。しかしそこでも夫の持つガイガーカウンターが鳴り始めたところで、映画は終わる。ここにはかなり解釈の幅が残されているように思える。シンプルな教訓のみを吸収する人もいるかもしれないが、少なくとも僕には、複数の解釈がありうるように思えた。


続いて同じピカデリーで『アルゴ』(ベン・アフレック監督)を観る。1979年にイランで起きたアメリカ大使館人質事件において、CIAがカナダ大使館に逃げ込んだ6人を救出するさい、ある途方もない作戦を展開したという歴史的事実を描いた実録映画。こうした実録映画では、いつものことながら、どこまでが史実でどこまでが演出なのかなと思いながら観ざるをえないのだが、ざらついた画面や1970年代を再現したと思われるセットなどはかなりホンモノっぽかった。ほんとに実録かよと疑問を持ちたくなるようなストーリー展開が続く。おまけにハリウッド(アメリカ映画産業)への批評的な要素まで盛り込まれている。
ベン・アフレックって監督としても優秀なのであろう。前作『ザ・タウン』に続き、なかなかの佳作。


日比谷に移動し、シャンテで『危険なメソッド』(デヴィッド・クローネンバーグ監督)を観る。周知の通り、ユングフロイトユングの患者でもあり教え子でもあり愛人ザビーナでもあった女性との関係を描いている。こちらも実録ものだが、言語は残念ながら英語だった(ほんとはドイツ語のはずである)。
前評判通り、キーラ・ナイトレイの演技がすさまじかった。「精神疾患への偏見だ!」という批判が出ないかと心配になるほど…。フロイトユングだけでなく、オットー・グロスまで登場し、精神分析学の誕生に、女性をめぐる恋愛沙汰が絡んでいたということは、歴史上のエピソードとしては興味深い。
がもちろん、精神分析が精神医療にどれだけ貢献してきたか(どれだけ有効か)ということとは、まったく別の話であろう。そんなこと、この映画に求めても仕方ないが…。
なおクローネンバーグの作品って、近年、徐々にわかりやすくなっているなあ、とも思った。


地元に戻って、もう帰ろうかとも思ったが、いつものシネコンで『009 RE:CYBORG』(神山健治監督)を観てしまう。周知の通り、石ノ森章太郎のコミック『サイボーグ009』の翻案(?)作品。神山が監督し、プロダクションI.Gがつくった作品とのことで、これまでのマンガやアニメの『009』の設定に、『攻殻』的なテイストをちりばめた作品かなと思っていたが、当たらずとも遠からず、であった。フランソワーズ(003)が飛行機から六本木ヒルズにダイブする姿なんて、『攻殻』の草薙そのもの。
観る前は、一種のリメイク作品だと思っていて、その通りでも間違いではなさそうなのだが、舞台が2013年で、20数年ぶりに00ナンバーのサイボーグたちが招集された、という説明もあるため、どうやらリメイクというより続編であるらしい。(9.11でも彼らが活動したことまで示唆される)。
肝心のストーリーをいまいち把握し損ねてしまったのは、当方のリテラシー不足であろうか? どうやら石ノ森が遺した、未完で、かつ抽象的なテーマの作品2編をベースにしているらしいことも、理解しにくかった理由かもしれない。それとも続編をつくることを前提として、あえて余白を残しているのだろうか? もちろん、映像やアクションなどはなかなかのレベルのものだった。それだけでも十分に楽しめたことは確かなのだが、少し未消化感が残ったことも事実。(どうでもいいことだが、ピュンマがサイボーグらしい能力を示すシーンが1つもなかった…。)