『よりよき人生』、『震災から1年〜』、『音のない3.11』

夕方、六本木シネマートで『よりよき人生』(セドリック・カーン監督)というフランス映画の試写を鑑賞。レストラン経営を夢見る男性が、レバノンからの移民でシングルマザーの女性−−『ジョルダーニ家の人々』の好演が記憶に新しい女優が名演−−と恋に落ちるが、多重債務に陥り、人間関係まできしみ始める、という物語。ダルテンヌ兄弟の一連の作品や、ピエール・ショレール監督『ベルサイユの子』など、欧州映画ではおなじみの貧困、移民の問題が映画全体に色濃く影を落としていることはいうまでもない。



夜、飯田橋の東京ボランティア市民活動センターで開催された第62回ビデオアクト上映会「何が災害弱者をつくるのか 3.11から見えたこと」で、震災関連のドキュメンタリー2本を鑑賞した。僕はビデオアクト(VIDEO ACT!)を黎明期から知っているが、上映会に行ったのはほんとにひさしぶり。土屋トカチさん、土屋豊さん、小林アツシさん、本田孝義さん、みんな老けたね。僕もか(笑)。
島田暁監督『震災から1年 被災地いわきからのメッセージ』は、自らも性的マイノリティである監督が、いわき市性同一性障害の当事者グループを取材し、彼/彼女らが震災で直面したことを、当事者へのインタビューや交流会の様子の撮影を通じて描く。あまり知られていない震災の一面を捉えた佳作。
今村彩子監督『音のない3.11〜被災地にもろう者もいた〜』は、自らろう者の監督が東北のろう者たちについての情報がなかったことから震災後11日目から宮城県に入り、ろう者たちを取材し始めた記録をまとめたもの。主にあるろうの老婦人を映す。これまた知られざる震災の一面を克明に描いた佳作。
マイノリティであること、それゆえに経済的な困難さを抱えていること、そこに震災が直撃したこと。この2作の共通点は、そうした三重の苦難を、当事者ならではの目で、内側からリアルに描いているということであろう。両作とも、被写体に対する優しさがにじみ出ている。優しすぎることが欠点かも。
上映後、「反省点などは?」と質問してみた。島田監督は、今作には組み込めなかった性的マイノリティのエピソードを取り入れた作品をつくることが課題とのこと。今村監督は、ろう者への取材はできたが、たとえばその家族など聴者の話を話を聞けなかったことが心残りだという。どちらも十分に克服可能であろう。期待しよう。