腰痛記念日、健康格差社会、死なせていること(letting die)
今日は何の日でしょうか。僕にとっては「腰痛記念日」(?)です。思えば昨年の本日の朝、腰に強烈な痛みを感じたのが、今日に至る闘病期間の始まりでした……。
なお、ここ数日、体調はそこそこ良好です。
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journalism.jpのネットラジオ(ポッドキャスト)「JCcast」の第19回が公開されました。
僕は、ノーマン・ダニエルズ、ブルース・ケネディ、イチロー・カワチ著『健康格差と正義 公衆衛生に挑むロールズ哲学』(児玉聡監訳、勁草書房)という本の内容を紹介し、それを糸口に健康や病気と貧困や格差について話題提供しました。あいかわらず舌の滑りが悪いのですが、お聴きいただければ幸いです。
また、赤木君はエレベーター事故とオタクバッシングについて、山下君はスポーツにおけるドーピングと先端医療技術について、それぞれ話題提供しました。こちらも合わせて、ご試聴ください。
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僕が紹介した『健康格差と正義』のなかで、著者のダニエルズらは、いわゆる生命倫理を次のように批判している。
アカデミックな生命倫理は、魅惑的な新技術や、そうした技術によって医師や病院管理者〔略〕が直面する困難な問題に、すぐに飛びつく。〔略〕しかし〔略〕新しい技術やマネージド・ケアや医療保険制度よりも「上流」(upstream)に位置する、社会の健康達成度の決めてとなる社会制度には注目して来なかったのである。(5頁)
一方、再三紹介してきたニコラス・ローズもまた、生命倫理の在り方について、疑問を投げかけている。
なぜ、生命の終わりにある人の「尊厳」は生命倫理的な問題であって、何百万もの5歳以下の子どもたちを、予防可能な原因によって、広範囲に「死なせている letting die 」ことはそうではない〔生命倫理的な問題ではない〕のか? (Nikolas Rose, The Politics of Life Itself, Princeton Univercity Press, 2006, p.31)
ローズのいう「死なせている letting die」というのは、推測だが、フーコーの『性の歴史I 知への意志』(渡辺守章訳、新潮社、1986年、原著1976年)の有名な一節、「死の中へ廃棄する」(175頁)を踏まえているのだろう。
また、ローズが具体的に念頭に置いているのは、いわゆる第3世界で感染症によって多くの子どもたちが亡くなっていることかもしれない。しかしながら、最近のニュースを読んでいると、ていどの差こそあれ、いちおうは「先進国」である日本についても、ダニエルズらやローズの問題提起に耳を傾ける必要があると思う。
国民健康保険(国保)の保険料を滞納して保険給付を差し止められ、医療費の全額自己負担が必要になった世帯の子ども(中学生以下)が、都道府県庁所在地と政令市計51都市中20都市で7333人以上に及ぶことが、毎日新聞の全国調査で分かった。「無保険」の子どもの人数が、全国的に把握されたのは初めて。子どもの診療抑制につながっている可能性が高く、保護者と同等に国や自治体も子どもの育成責任を負うとした児童福祉法の観点から見直しの声も上がりそうだ。〔後略〕
経済的な理由で医療にかかれずに死亡した事例が昨年(2007年)の1年間で、少なくとも18都府県で31件に及ぶことが3月26日までに明らかになった。05〜06年の2年間を対象にした前回の調査では29例だったが、今回は1年間で、その数を上回っていた。国民健康保険料を滞納すると、「短期保険証」や「資格証明書」を発行する方針を国が01年に固めてから、受診を控え手遅れになって医療機関にかかるケースが増えており、経済格差の広がりが?医療難民?を生み出しているとみられる。〔後略〕
人は人を、あるいは国家や社会は人々を、「殺す」ことには強い抵抗を持つ。しかし、「死なせる let die(≒死の中へ廃棄する)」ことには、案外と無頓着なのではないか。この件については、今後も考察するつもり。08.8.31
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