クローン・ウォーズ/ステムセル・セラピー

 昨夜のことだが----近所のシネコンで、『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』を観る。
 周知のとおり、この映画の物語は、時系列的にはエピソード2とエピソード3とのあいだの出来事であり、それが実写ではなく、3Dアニメで描かれている。アニメといっても、新シリーズ(エピソード1〜3)ではすでにかなりのCGが使われていたためか、違和感はあまりなかった。旧シリーズ(エピソード4〜6)のファンで新シリーズに批判的な人のなかには、CGのせいで「重厚感」がなくなった、と嘆く人がいるようだが、全編CGの本作品はどう受け取られるのだろうか。また、ルーカスが製作総指揮をとっているためであろう、スター・ウォーズ的世界観は充分に活かされていた。ただ、新しく登場したキャラクターの行く末が気になるような終わり方だった。もしかして、これもシリーズ化されるのだろうか。
 また、共和国軍の兵士「クローン・トルーパー」たちはすべてジャンゴ・フェットのクローンのはずだが、微妙に異なる遺伝子改変がなされているためか、それとも訓練と実戦経験のためか、それなりの個性があるようだ。
 制作者たちは間違いなく、ジャパニメーションを意識しているだろう。アメリカには、小説でも映画(実写)でも、SFの長い歴史があるのだから、そろそろアニメでも挽回してくるかもしれない。
          ※
 日本の研究者らが、マウスの体内で、iPS細胞から膵臓をつくることに成功した。

iPS細胞でネズミの膵臓作製に成功…東大医科学研

 新型万能細胞(iPS細胞)を利用して、マウスの体内で膵臓(すいぞう)を作製することに、東京大医科学研究所の中内啓光教授らが成功した。
 研究が進んで、糖尿病患者のiPS細胞を作製し、動物の体内で膵臓を作らせることができれば、移植医療に使える可能性もある。
 実験では、膵臓の形成に必要な遺伝子を持たないマウスを使った。膵臓が欠損したこのマウスの受精卵を数日間培養。胚盤胞まで育った段階で、正常な遺伝子を持つマウスから作ったiPS細胞を注入した。その後、胚盤胞代理母の子宮に移植し、誕生したマウスを調べたところ、膵臓が出来ていた。
 膵臓には、インスリンを分泌するベータ細胞も含まれ、血糖値を正常に保つ機能があることを確認した。注入したiPS細胞が、欠損するはずだった膵臓を補完したとみられる。
 研究チームは、別の万能細胞である胚性幹細胞(ES細胞)を使い、マウスの膵臓や腎臓を作ることにも成功している。今後、サルやブタで人間の臓器が作製できるか確かめる計画だ。
 動物の体内で移植用の臓器を作製する試みは、難病患者に福音となる可能性がある一方、未知の感染症に侵される恐れも指摘されている。
(2008年8月31日10時02分 読売新聞)

 これはややこしい。(追記:この記事には書誌情報がない。08.9.3)
 まず素朴な疑問として、「糖尿病患者のiPS細胞を作製し、動物の体内で膵臓を作らせることができれば、移植医療に使える可能性もある」とあるが、患者はそもそもインスリンをうまくつくれないのだから、その体細胞を、iPS細胞(やセラピューティック・クローニング用の「核移植ES細胞(nt ES celll)」)の材料として使えるのかどうか。これは「自家移植」とか「自己移植」と呼ばれる医療モデル全般に共通する疑問だが。
 また、「誕生したマウスを調べたところ、膵臓が出来ていた」というのだから、将来的には、ES細胞やiPS細胞から、単一な細胞群だけではなく、複数の種類の細胞から成る立体臓器をつくることができる道筋が見えた、と理解してよいのだろうか。
 法的な問題も複雑になりそうだ。少なくとも、臓器移植法、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」、「異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針」がかかわるはず。iPS細胞の樹立に遺伝子導入が使われるのならば、遺伝子治療の指針にも引っかかるだろう。
 一方で、やや抽象的で哲学的な疑問もわいてくる。動物は、ヒトの臓器を持っていても「動物」であろう。その臓器を受け取る人間もまた、「人間」であろう。膵臓だけでは。ならば、そのほかの部位では。複数の部位では……。
 この実験が将来的に見据えている医療の形態は、イタリアの哲学者ジョルジョ・アガンベンの議論を誇張して捉えれば、「動物の人間化」と「人間の動物化」ということにならないか(あくまで生物学的な側面のみにおいてのことであるので、「誇張」なのだが)。アガンベンによれば、それらは裏表の関係にある。

動物の完全な人間化は、人間の完全な動物化に符号しているのだ。(ジョルジョ・アガンベン『開かれ』岡田温司、多賀健太郎訳、平凡社、2004年、原著2002年、118頁)

 あるいは、実はこの医療形態も通過点に過ぎず、将来的には、動物の個体作成を経由することなく人間の立体的な臓器をつくることが目標なのかもしれない。
 僕自身は、「動物の人間化」よりも「人間の動物化」のほうがより深刻で(前者はやむを得ない場合が多いのではないか)、かつ、人間の動物化は移植医療以外の領域ではすでになされていることで、その深刻さもより深いと思っている。08.9.2

開かれ―人間と動物

開かれ―人間と動物