事務所開き、キャッシュ、生物特許

 昨夜は浅草橋にて、知人が経営する編集プロダクション「LA MAPPA企画」の事務所開きパーティに参加。楽しい仕事ができればいいなあ。
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 またしてもYYjにやられてしまったのだが……先日紹介した「iPS細胞の倫理委設置へ、年内にも提言」という記事(『読売新聞』2008年8月27日付)には、削除されていた部分があり、それがキャッシュにのみ残っているという。

 同学会常務理事の鳥居隆三・滋賀医科大教授は、「国で厳しい規制が決まってしまうと、研究ができなくなる。国の結論が出る前に提言をまとめたい」と話している。

 ……専門家たちの職業意識に期待することにしよう。
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 京大が申請していたiPS細胞の国内特許が認められたらしい。各媒体が伝えているが、『毎日』が複数の記事で、比較的深くその背景まで書いている。

iPS細胞:京大特許成立 国内研究に弾み 「無償で技術提供」

 山中伸弥・京都大教授が発明した人工多能性幹細胞(iPS細胞)に関する最初の特許は京都大が持つことになった。06年8月、マウスのiPS細胞作成を論文で発表して以来、再生医療などの切り札として、世界が注目していた特許。今回の取得は国内での研究を大きく推進するとみられる。【奥野敦史、永山悦子】〔後略〕

 いわゆる生物特許については、さまざまな論争がなされてきた。しつこいようだが、社会学者キャサリン・ワルドビーらの見解を見てみよう。

「ダイアモンド対チャクラバーティ」のアメリ最高裁判決以来、バイオテクノロジー的に操作された組織や物体は、それが発明の基準を満たすのならば、特許権を取ることが可能である----それらは新規なものであり、有益なものであり、そして非自明なものでなければならない。遺伝子の塩基配列一塩基多型、細胞株、そしてノックアウトマウスのような多細胞の有機体のようにさまざまな物体が、こうした基準の下で特許化されてきた。バイオテクノロジーの特許は、相当な投資ファンドをもたらし、その所有者〔ホルダー〕の利益になる。その一方で同時に、ドナー〔提供者〕自身はその素材の生産性について所有権を主張することはできない。(Catherine Waldby, Robert Mitchell, Tissue Economies, Duke Univercity Press, 2006, p.72-73)

 ワルドビーらはイギリスの事情を説明した後で次のように指摘する。

 手短に言えば、われわれの分析における所有権にもとづくシステムよりも(Laurie 2001)、インフォームド・コンセントがより適切にドナーの権利を守るかどうかをめぐって、法的、生命倫理的な議論が続く一方で、インフォームド・コンセントはすでに所有権にもとづいているのだ。すなわち、レシピアント〔受け取り側〕の権利である。これは〔中略〕同胞への贈り物と医学研究者への贈り物とのあいだの、重要な区別である。これは所有の隠れた形態である。ただ受け取った側だけが所有権を主張できるのだ。しかしながら、こうしたインフォームド・コンセントの過程の不公正な契約的側面は、広く隠されている。(ibid., p.73、斜体原文のママ)

「レシピアント」への「贈り物」というモデルで考えても、誰への贈り物か、ということがポイントになりそうだ。ワルドビーは「医学研究者」を例にあげているが、当然ながら、企業が含まれることもあるだろう。
 いずれにせよ、最終的に生じるであろう医療的な利益が特定の人々のみに偏ることなく、万人がその恩恵を得られるようになることを望む。08.9.13

Tissue Economies: Blood, Organs, And Cell Lines in Late Capitalism (Science And Cultural Theory)

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