近況、雑誌メディア、NASガイドライン改定

 更新が少し滞ってしまいましたね……。
 体調のほうはあいかわらず、軽度の再発と回復を繰り返しています。毎週金曜日の午前中には、クリニックで運動療法を受けています。30分間、椅子に座り続けることができない時期が半年以上続いたことを思えば、マシになったといえます。
 大学が始まります。学生としては明日から。教員としては来週火曜日から。
 先週金曜日、「JCcast」の20回目の収録に参加しました。近日中に公開されると思います。
 日曜日には、出版フリーランサー数人といっしょに印刷博物館を見学してきました。同博物館では周知の通り、「ミリオンセラー誕生へ!明治・大正の雑誌メディア」という展示企画が開催されています。個々の雑誌の休刊が続く現在、というか、雑誌というメディア自体が死に絶えようとしている現在、非常にタイムリーで、感慨深かったです。有名雑誌の創刊号がいろいろと展示されていたのですが、岩波の「思想」の外見が、いまとほとんど変わらないことに笑いました。また、印刷にかかわる常設展示も充実していました。
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 気になるニュースがいくつかあります。
 JCcastでは、アメリカの幹細胞政策について話題提供しました。それと関連することですが、全米科学アカデミーガイドラインを改定しました。以下、「サイエンス・デイリー」の記事(プレスリリース)を訳出しておきます。

幹細胞研究のガイドライン、公表
Stem Cell Research Guidelines Released


 サイエンス・デイリー(2008年9月5日)----全米アカデミーThe National Academiesは、ヒト胚性幹細胞にかかわる研究の修正ガイドラインを公表した。2005年に発行され、2007年に更新されたものの改定である。
 同アカデミーはもともと、ヒト幹細胞を使う研究の責任ある実施のための倫理基準の共通セットを提供するガイドラインをつくった。ヒト幹細胞の研究は、広範囲の連邦予算の供与がないために、国家的な基準を欠いている分野である。
 その最初の公表以来、同ガイドラインは、アメリカにおけるこの研究への監視の基盤として効果的に役立ってきた。さらには、常設の諮問委員会(同アカデミーの全米研究会議National Research Councilと医療研究所Institute of Medicineとの共同プロジェクト)が設立され、科学上の向上を監視、評価し、改定の必要性を決定している。
 胚性幹細胞〔ES細胞〕には、身体の細胞すべてをつくる力がある。研究者らは、それら自身を再生させることと、医療的治療につながる特定の細胞をつくることの両方のために、幹細胞の能力を利用することを研究している。そうした細胞は、たとえば神経細胞のように、衰弱性の病いやケガのためにダメージを受けた、もしくは失われた、ある種の細胞に置き換わる。
 この2008年改定の理由の1つは、昨年初めて開発された新しいヒト幹細胞の樹立と利用についてのガイダンスを提供することである。それらの細胞----「人工多能性幹細胞〔iPS細胞〕」と呼ばれる----は、胚ではない成体の細胞を幹細胞的な状態へと初期化することによってつくられた。それらは、幅広い特定化された体細胞をつくるために操作されうる。人工多能性幹細胞は、胚を使うことなく樹立されうるが、それらの利用可能性にかかわる倫理的、政策的懸念は、ヒト胚性幹細胞にかかわるそれらと同様である。
 たとえば、1つの有機体organismのなかでヒトの細胞と動物の細胞を混ぜ合わせることから生じる問題は、胚性と非胚性、どちらのソースの幹細胞にも関係する。しかしながら、人工多能性幹細胞の樹立は、特別な幹細胞の専門知識を必要とせず、また、現行の機関内審査委員会によって適切にカヴァーされている、と報告書は述べる。
 同時に、どの種類の細胞が再生医療にとって最も有益であると証明されるかは未確定である。それぞれのほとんどがいくらかの有用性を持つであろう、と報告書を書いた委員会は述べている。それゆえ、新しい細胞ソースの利用可能性にかかわらず、ヒト胚性幹細胞を使う研究の必要はいまも存在する。
 この修正ガイドラインはまた、幹細胞研究での利用のためにその卵子を提供する女性への補償の「直接的経費」は、移動や居住、子どもの世話、医療的ケア、健康保険、実際に失われた賃金にかかわるコストを含むだろう、と明記する。この言葉遣いは、2005年ガイドラインを拡張している。2005年ガイドラインは、研究目的に特化して卵子を提供するためにホルモン誘発を経験する女性は、その手順の結果として生じた「直接的経費」のみについて補償されるべきだと規定した。その一方で、それ〔2005年ガイドライン〕はどのような経費を直接的なものだという資格があるのかを特定しなかった。同委員会は、失われた賃金の補償は、卵子への支払いではないと強調した。その意図は、すべてのドナー〔提供者〕を、金銭的によくすることからも悪くすることからも切り離すことにある。
 研究機関やその研究者が幹細胞研究を、責任を持って実施しているという高い信頼を得るために、同ガイドラインは、実施中の幹細胞研究の種類について、また、その研究がどのようにその研究機関の確立された手順に従っているかについて、人々〔一般市民〕が情報をもたらされること、と勧告した。さらに同委員会は、適正管理good management practiceとして、ヒト胚性幹細胞研究を実施する研究所は、適切な実施を確かなものとするために、胚性幹細胞研究監視(ESCRO)委員会による定期監査を実施し、その監査の知見を人々に利用可能なものとするよう、強く指摘した。その監査は、研究申請の受容を認める決定を文書化し、利用される細胞株が容認できる範囲で樹立されることを立証しなければならない。
 さらには、この新しいガイドラインは、機関内のESCRO(ヒト胚性幹細胞研究監視)委員会は、新しい幹細胞株をつくりはしないが、それまでに樹立されたヒト胚性幹細胞株を使う、培養皿や試験管内で包括的になされる研究について、優先的評価を実施するであろう、と明記する。オリジナルのガイドラインは、研究は「現在課されている評価と、関連研究機関の適切な告知notificationの後に認可可能である」と述べている。しかしながら「告知notification」という言葉は、研究が行なわれるだろうとESCRO委員会にただ伝えるだけでその要件が満たされうるのか、という疑問を一部の専門家にもたらした。優先的評価を認めているにもかかわらず、同ガイドラインはいまも、ヒト胚性幹細胞が適切に樹立されたかどうかを見極めるためのESCRO委員会を必要としている。
 委員会の将来的な審議は、さらなる情報収集とさらに集中的な論争と討論が必要になるであろう事項を検討することになるだろう。たとえば国立衛生研究所は2001年、ジョージ・W・ブッシュによって連邦予算を使う研究にふさわしいと宣言されたヒト胚性幹細胞株を決定した。それらはインフォームド・コンセントを得て、経済的な誘発なく提供された胚から樹立された、と。この決定にもとづき、アカデミーの2007年ガイドラインは、それらの株は適切に樹立されたものだとみなした。しかしながら、それらの樹立についての疑問が、この報告書が完成に近づいたときに持ち上がった。さらには最近、生きている動物における、ある種類から別の種類へと成体の細胞を「初期化」する能力のブレークスルーが報告された。同委員会は幹細胞研究の発展を監視し続けることになるだろう。どのようなものであれ、このガイドラインの将来の変化が正当化されるかどうかを見定めるために。
 この報告書は、エリソン医療基金、グリーンウォール基金ハワード・ヒューズ医療研究所によって支援されている。全米科学アカデミーThe National Academy of Sciences、全米工学アカデミーNational Academy of Engineering、国立研究会議National Research Councilが、全米アカデミーthe National Academiesを構成する。彼らは、議事的な憲章のもと、科学や技術、健康政策の助言を提供する、民間の、非営利の組織である。研究会議は、全米科学アカデミーと全米工学アカデミーの、主要な運営機関である。
 
全米科学アカデミーに提供された資料から得られたこと。(粥川準二仮訳)

 この記事(プレスリリース)のなかに「しかしながら、それらの樹立についての疑問が、この報告書が完成に近づいたときに持ち上がった」とありますが、この出来事については、JCcastで話題提供し、某雑誌で短い記事を書きました。近日中にご紹介します。
 また、journalism.jpのブログのエントリーもご参考までに。
 
NASガイドライン勧告
 
 この件、引き続き注視したいと思います。08.9.30