アダプター、発表準備、講義資料

 また少し更新が滞ってしまいました。別に体調が悪かったわけではありません。むしろこの2週間ほど、疼痛は比較的低いレベルにとどまっています。今週末の発表と、来週に提出予定のある書類の準備に追われています。
 そのあいまに国士舘大学で講義をしているわけですが、アダプターを変えても、教室のプロジェクターが反応してくれませんでした。14日(火)も21日(火)も、念のため用意しておいた資料をもとに、口頭で説明する、というかたちでしのぎました。途方にくれてしまい、21日には終了後、事務の人といっしょにアレコレ機械をいじってみたのですが、最終的には、当方のMacBookの「ミラーリング」という機能をオンにすれば、スクリーンにMacBookと同じ画面が写ることがわかりました。デフォルトにしておけよ(>アップル)。
 というわけで、次回から、ようやく動画を観せられます。動画を観せられないとわかったとき、学生さんの1人が「ネズミ観たかったのに〜」とか言っていたけど、ネズミは登場しません(笑)。
 21日の講義では、ジョセフィン・ジョンソンという生命倫理学者が『ワシントンポスト』2004年3月8日付に書いた「クローンの背後にいる女性」という論説を紹介しました。
 2004年3月といえば、ファン・ウソクがヒトクローン胚からのES細胞樹立を初めて報告した直後です。当然のことながら、卵子「不正」入手疑惑も論文捏造疑惑もあがっていなかった時期。この段階で、これだけのことを指摘していた人がちゃんといたのです(「僕以外にも」と書くのはやめておこう。書いちゃったけど(苦笑))。ジョセフィン・ジョンソンという人の名前はあまり聞いたことがありません。僕が不勉強なだけかもしれませんが、もっと評価されてもいいでしょう。
 すでに『ワシントンポスト』のサイトでは削除されています。が、何カ所かにコピペされているようです(笑)。たとえばココとか。実はこの論説、「みずもり亭日誌」時代に紹介したことがあるのですが、そのときの訳文に間違いがあったので(苦笑)、数カ所修正しました。

 以下、ご参考までに。

クローンの背後にいる女性
The Women Behind Cloning
ジョセフィン・ジョンソン
By Josephine Johnston


2004年3月8日(月)
ワシントンポスト』A19頁


 先ごろ韓国でヒト胚のクローンが行なわれたことについて多くの人を心配させているのは、ヒトのリプロダクティブ・クローニングが間近らしいということである。こうした(世界中の科学者たちがその目標を積極果敢に追求してきた)技術的ブレークスルーの実質的な必然性と、そのような(非倫理的な用途に導入しかねない、多くの科学的技法の)開発を進める企業を考えると、そのような発展は驚くにあたらない。私たちを心配させるに違いないことは、そうしたクローン胚を作出するために、242個の卵子が16人の女性ボランティアから採取されたことである。
 クローンをめぐる倫理的論議のなかで、卵子のドナー(提供者)ほど見過ごされてきたものはない。ヒトクローン胚を作出するために、科学者たちはヒトの卵子を手に入れ、その核を取り除き、ほかのヒト細胞(このケースでは卵丘細胞ovarian cumulus cell)に由来する新しい核を挿入する。この新しい存在は次に、自身を複製し始めるための化学的引き金を引かれ、ヒト胚のように発生し始める。韓国の科学者たちがその女性ボランティアたちから集めた卵子242個から、胚30個が作出され、それからたった1株の胚性幹細胞が誘導された。
 男性における必然的結果(精子提供)とは異なり、卵子提供は時間がかかり、痛みに満ち、リスクとともなう医療行為である。卵子ドナーは数週間に渡って薬品を投与され、その結果、過剰に排卵し、つまり自然な状態よりもはるかに多い卵子を一度につくる。妊娠可能な女性の多くは、それぞれの月経周期のあいだ、わずか1個の卵子を成熟させる。〔薬品による〕刺激を受けている女性たちは、一度に2、3個から10個以上のあいだの卵子をつくることができる。卵子は次に、彼女の膣を通じて中が空洞になった針を差し込むか、もしくは腹腔鏡手術で女性から取り出される。そうした刺激や卵子入手の過程におけるリスクには、発熱や頭痛、不眠、情緒不安、卵巣過剰刺激症候群、吐き気、嘔吐、嫌み、出血と感染が含まれる。そうした投薬による卵巣がんの危険性についての議論すら存在する。
 そうしたリスクにもかかわらず、搾取や危害からの卵子ドナーの保護は、クローン論議においては、そうした胚の1つがみごと女性に着床させられて、クローン人間の誕生につながるという、いまだ
実現されていない可能性に比べて、ほとんど注目を集めていない。確かに、生きている人の肉体的および心理的健康は、倫理的スポットライトを浴びる価値がもう少しある。
 妊娠という文脈の中では、卵子を提供する女性のほとんどは35歳以下である。不妊治療のドナーと同じく、クローン研究のために卵子を提供する女性は、自分たちに健康上の便益を何ももたらさない、侵襲的でリスクの高い手続きに参加することになる。この理由だけのために、彼女らは特別な倫理的懸念を許容せざるを得ない。多くの指針(ガイドライン)や規制がそうしているように、卵子ドナーは経済的に補償されるべきではないという主張は、必ずしも、不当な影響がある可能性を取り除く、もしくは、インフォームド・コンセントやリスクの説明過程についての懸念すべてを和らげることにはならない。インフォームド・コンセントは、医師や研究者の倫理的責任を免除し、研究に参加することによる有害性を最小化することにもならない。インフォームド・コンセントは、女性が研究のために経験する〔月経〕周期の数に限界を定め、インフォームド・コンセントにおいてそうした女性たちに説明なされなければならない明確なリスクを特定し、当該の研究とは無関係のプロフェッショナルにカウンセリングや治療を受けることを主張するために不可欠なものであろう。卵子ドナーの衛生および健康のフォローアップ調査もまた必要だ。
 クローニングや幹細胞の研究が前進するにつれて、多くの女性が、科学のために卵子を提供するよう募集されるだろう。実際、この研究が治療につながるのだとしたら、ヒトの卵子の国際的需要は急増しうる。こうしたバイオテクノロジーにともなう論議において、卵子ドナーの権利と福祉は軽視されてはならない。
 最近、『サイエンス』や『ネイチャー』、『国立科学アカデミー紀要』で公表された研究は、少なくとも部分的な解決となる希望をもたらす。これらの研究は、マウスの胚性幹細胞から精子および卵子様の細胞を得ることを記述している。もしいつか、ヒト卵子が現存する胚性幹細胞株から派生させることができるようになれば、女性のボランティアから卵子を集めることをめぐる倫理的問題の多くは消滅し、ヒト胚を故意に破壊することについての、おなじみの道徳的懸念(だけ!)を残すことになる。

著者は、ヘイスティングス・センターの倫理・法・社会の研究者。(粥川準二仮訳)

 繰り返しますが、この文章は2004年3月に書かれたものです。08.10.23

クローン人間 (光文社新書)

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現代思想2008年7月号 特集=万能細胞 人は再生できるか

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