オバマvsマケイン@幹細胞研究

 アメリカの大統領選挙の投票は4日(火)である。もう勝負はついたようなものだが。
 科学政策に興味を持つ人のあいだではすでに広く知られているが、「サイエンス・ディベイト2008」というウェブサイトが、オバマとマケインに対し科学政策についての質問14項目を投げかけ、両候補の答えを並列表記している。
 
米大統領選戦うマケイン氏とオバマ氏、科学政策案が両候補出そろう(2008/09/16)
Sciencedebate2008
 
 YYjこと山下君が、もうすぐ公開されるはずのJCcastで解説するので、この試みの全体像については同番組を試聴してほしい。
 ここでは幹細胞について見てみよう。

〔質問〕
8.幹細胞。幹細胞研究の擁護者らは、幹細胞は多くの慢性病や怪我の治療にみごとつながり、生命を救う、と言う。しかし反対者らは、幹細胞の供給源として胚を使うことはヒトの生命を破壊する、と主張する。政府の規制や幹細胞研究への予算についてあなたの立場はどのようなものですか。


オバマ氏の答え〕
 幹細胞研究は、少なくとも3つの道筋において、私たちの生活(生命)を向上させる展望を持ちます。糖尿病やパーキンソン病、脊椎損傷、心不全、そのほかの疾患を治療するよう、傷ついた細胞に正常な細胞を置換させることによって。薬剤開発のための安全で便利な疾患モデルを科学者たちにもたらすことによって。そして、通常の発生や細胞の不全の根本的側面を理解することを手助けすることによって。
 こうした理由により、私は幹細胞研究の拡大を強く支持します。私は、ブッシュ大統領がヒト胚性幹細胞研究への予算提供について定めた制限は、科学者たちの足かせとなり、ほかの国と競争する私たちの能力を妨害してきた、と思います。私は、大統領命令を通じて、2001年8月9日の後に作出された胚性幹細胞の研究への連邦予算の提供をめぐる、現政権の禁止を撤廃するつもりです。また私は、幹細胞研究すべてが倫理的に実施され、厳しい監視を伴うことを確かなものとします。
 私は、ヒト胚から採取された細胞を必要とする研究への政府の支持に反対する人がいることを知っています。しかしながらアメリカの体外受精クリニックに蓄積された何十万もの胚は、生殖という目的に使われることなく、最終的には破壊されます。私は、そうした余剰胚extra embryosが明確な目的のために自由に提供されるならば、命を救う研究のためにそれらを使うことは倫理的であると思います。
 また私は、胚以外の供給源から得られた、さまざまな種類のヒト幹細胞が胚性幹細胞を不必要にするという指摘があることも知っています。私はそれに賛成しません。たとえば血液や骨髄から得られるような成体(体性)幹細胞がすでにいくつかの疾患の治療に使われているとしても、それらには胚性幹細胞の多才性versatilityはなく、それらに置き換わりえません。近年の発見は、大人の皮膚の細胞が幹細胞のようにふるまうよう初期化されうることを示唆しています。それらは、将来的には、きわめて多才な幹細胞の代替的な供給源になりうる、エキサイティングな知見です。しかしながら胚性幹細胞は「金本位制〔ゴールド・スタンダード〕」であり続け、すべての種類の幹細胞研究が予測可能な未来のために並行して継続するべきです。
 そのような研究への予算提供の制限よりも、私は、それへの責任ある監督を支持します。アメリカ学術研究会議National Research Councilの最近の報告書に従って。NRCの報告書の勧告はすでに、さまざまな供給者からの予算を使ってヒト胚性幹細胞研究を実施している研究機関によって理解されています。拡大され、連邦によって支持される幹細胞研究プログラムは、才能あるアメリカの科学者たちがこの重要な新しい分野に従事することを促進し、より効率的な監督を可能にし、医療研究におけるこのエキサイティングな分野において競うために、私たちのコミットメントを他国に知らせることになるでしょう。


〔マケイン氏の答え〕
 私は胚性幹細胞研究への連邦予算の提供を支持しますが、私は、道徳的価値を犠牲にすることの拒否や、科学的進展のために犠牲となる倫理的原則を反映する、クリアな線が引かれるべきだと思います。さらに私は、最近の科学的ブレークスルーが、いつの日かこの論争が学問的なものへと滅菌されるbe renderedだろうという希望をもたらしていると思います。私はまた、そのほかの研究プログラムへの予算提供も支持します。大きな科学的展望があり、胚の利用にかかわらない、羊水や成体の幹細胞研究などです。私は、研究目的のためのヒト胚の意図的な作出には反対し、「胎児養殖fetal farming」といった行為の禁止に票を投じます。研究目的で作出された胚による細胞や胎児組織を使うことを、研究者の国家犯罪とするのです。(粥川準二仮訳)

 一読してわかるように、マケインは歯切れが悪い。量だけを見ても、オバマはマケインの3倍以上、言葉を尽くしている。どちらが勝っても、ブッシュ現政権によるES細胞研究への予算の制限は、緩和されることになるだろう。それを見て、日本の幹細胞研究者らは、さらにまた規制緩和を求めるかもしれない。しかし、アメリカの研究者らは自分たち自身で厳しいガイドラインをつくっており、オバマもそれに言及していることを忘れてはならない。08.11.3