JCcast、図書館難民の憂鬱、『チェチェンへ』

 JCcast第21回が公開されました。
 先日ご紹介した通り、僕は「ビスフェノールA」について、山下君はアメリカ大統領選挙における科学政策論争について、赤木君は「こんにゃくゼリー」について話題提供しました。ご試聴いただければ幸いです。
 
JCcast第21回

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 いまさらではあるが、(1)幹細胞およびクローニング(当然ながら、「卵子提供」を含む)の、いわゆる倫理問題を論じるうえで参考になりそうな資料(原著論文、レビュー論文、ニュース記事)で、(2)ニュース媒体ではなく医学・科学の学術誌に掲載され、(3)ウェブ上で無料で読むことができ(含むPDF)、(4)比較的最近書かれたものを集めてみた。


Ethics Issues in Stem Cell Research
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/312/5772/366
Oocyte donation for stem cell research
http://humrep.oxfordjournals.org/cgi/content/full/22/3/629
Egg Donation and Human Embryonic Stem-Cell Research
http://content.nejm.org/cgi/content/full/354/4/324
Reproductive Freedom and the Next President
http://content.nejm.org/cgi/content/full/359/18/1867
Beyond Fraud ― Stem-Cell Research Continues
http://content.nejm.org/cgi/content/full/354/4/321
Egg Donation and Human Embryonic Stem-Cell Research
http://content.nejm.org/cgi/content/full/354/4/324
Using Therapeutic Cloning to Fight Human Disease: A Conundrum or Reality?
http://stemcells.alphamedpress.org/cgi/content/full/24/7/1628
Development of Human Cloned Blastocysts Following Somatic Cell Nuclear Transfer with Adult Fibroblasts
http://stemcells.alphamedpress.org/cgi/content/full/26/2/485
Picking Up the Pieces After Hwang
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/sci;312/5773/516
Reactions to the Hwang Scandal
http://www.sciencemag.org/cgi/content/full/311/5761/606b
HFEA allows women to donate eggs for research
http://www.bmj.com/cgi/content/full/334/7591/445-a
Can a cell have a soul?
http://www.bmj.com/cgi/content/full/336/7653/1132


 それなりにあることはある。まだしつこく、セラピューティック・クローニングに固執している研究者がいることもわかった。2006年のものが比較的多いのは、ファン・ウソク事件の余韻とiPS細胞の登場(マウスでは2006年8月)というタイミングのせいであろう。
 しかし、当然といえば当然のことながら、定期購読契約者以外にはブロックのかかっている資料も多い。
 というわけで、昨日、午前中から東京医科歯科大学付属図書館へ。理系の研究機関に所属していないライターや研究者にとっては情報の宝庫だったこの図書館でも、ほとんどの雑誌は電子化されて、印刷版は『ネイチャー』や『サイエンス』ですらなかった。もちろん、『セル』も『JAMA』も『NEJM』も。外部の者も電子ジャーナルの端末を使えるとのことだったが、プリントアウトは不可、USBメモリの使用も不可で、CD-ROMのみOKとのこと。理由は、「悪質な業者がいるので……」とのことだったが、どんな悪質な業者なのかは、尋ねそこねてしまった。今度聞いてみよう。
 比較的短時間であきらめて、永田町の国立国会図書館へ。新館の電子資料室で電子ジャーナルの端末に悪戦苦闘したり、本館の科学技術・経済資料室で印刷版の『サイエンス』や『ネイチャー』を閲覧し、何度も複写カウンターに運んだり……。
 とくにマニアックでもない基礎資料を得るために、どんなに手間がかかったか。1日に2つの図書館で経験した不快な出来事は数え切れない。学術雑誌の電子化って、昨今流行っているはずの「科学技術コミュニケーション」の阻害になっていないか。この混乱や不便が一時的なこと、一過性のものであることを祈る。
 もちろん、僕には理系の研究機関に所属している友人・知人は少なくない。彼らに頼めば、資料の入手など簡単でないこともない。しかし、僕にも小さな意地がある。またそれ以上に、学術資料へのアクセスはインフラとして存在すべきだと考えているので、できる限り自力で入手可能な方法を探し、その経過をこうして書いている次第。
 が……イザというときには、理系のみなさま、よろしくお願い申しあげます(笑)。
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 午後、東銀座に移動。東劇3階の試写室で、『チェチェンへ アレクサンドラの旅』を観る。『太陽』がたいへん印象的だったソクーロフの新作である。
 年老いたロシア人女性アレクサンドラが、グロズヌイのロシア軍駐屯地に将校として滞在している孫を訪ね、そこで数日間を過ごす。ただそれだけの物語なのだが、不思議な余韻を残す作品である。印象的だったのは、現地の市場を訪ねたアレクサンドラが知り合う、ロシア語を話すチェチェン人女性の台詞。「男同士は戦うけど、私たちは姉妹にもなる」(大意)。長期間、前線に立ち続ける兵士の多くは離婚を余儀なくされているという話も気になった。
 主演の女性は女優ではなく、著名なソプラノ歌手とか。
 林克明さんが解説すればいいのに、と思いながらプレス資料をめぐるが、彼の寄稿はない……と思っていたら、表3に「協力」として、彼の名前がしっかりとクレジットされていた。さすが。
 なお、これまたパンドラの配給作品である。
 夜半にいったん帰室してからプールへ。
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 本日は、ほぼ終日、自室で雑務。金曜はリハビリの日なのだが、今日は担当の理学療法士がお休みなので、明日の午前中に行くつもり。08.11.7

太陽 [DVD]

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