万能細胞、生殖細胞、動物福祉

 午前中から国士舘大学鶴川キャンパスへ。「生命科学と21世紀社会」第8講、これまでiPS細胞、ファン・ウソク事件について話し、その背景としてES細胞、クローン技術、生殖技術について話したのだが、ここでまたファン・ウソク事件について復習。ようやく来週から別のテーマに入れそう。
 例によって講義中のあいだには、疼痛をいっさい感じなかった。
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 タイミングが悪いが、ES細胞やiPS細胞からの精子卵子の分化誘導研究が認められることになりそうだ。

 文部科学省の科学技術学術審議会は27日、生命倫理・安全部会の作業部会を開き、ヒトのES細胞やiPS細胞といった万能細胞から、精子卵子などの生殖細胞を作る研究を認めることに合意した。ただし、作製した精子卵子を受精させることは、技術的にも倫理的にも時期尚早として認めなかった。
 ES細胞などを研究目的で扱うために文科省が定めた指針では、ヒトの受精卵からつくったES細胞を使った研究として、(1)精子卵子の作製(2)作った精子卵子の受精(3)受精させた胚(はい)の子宮への移植――などは認められていない。安全部会では、iPS細胞についても今年2月、ES細胞と同じ対応にすることを確認していた。
 しかし、不妊症の原因解明などに道をひらく可能性があるとして、万能細胞を使って生殖細胞を作製し、基礎的な研究ができるよう求める声が上がっていた。このため、作業部会を設置して検討を進め、生殖細胞の作製については認めることにした。
 作業部会では、動物の研究でもES細胞から生殖細胞を体外で作製することすら難しいことから、生殖細胞ができていない段階で受精を認めるのは当面できないとの意見が大勢を占めた。
 作業部会は報告書をまとめ今年度中に安全部会に提出する予定で、認められれば文科省が指針の改定作業に入る。(竹石涼子「万能細胞からの精子・卵子作製認める 文科省学術審部会」、『朝日新聞asahi.com)』2008年11月27日21時40分)

「〜審議会」というのは、正式には「科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会(第62回)及びヒトES細胞等からの生殖細胞作成・利用作業部会(第8回)」というもの。資料はたぶんココにアップされるはず。もちろんまだだけど。
「安全部会では、iPS細胞についても今年2月、ES細胞と同じ対応にすることを確認していた」とうのは、ES細胞の研究指針では、精子卵子への分化誘導が禁じられており(第45条)、iPS細胞もとりあえずそれに準じるよう、文科省が全国に2月21日付で「通知」したこと。原文では、

1.生殖細胞系列以外のヒト組織幹細胞からの生殖細胞の作成を行わないものとする
こと。
2.現行のES指針第45条における禁止行為の規定を準用し、ヒトiPS細胞を用いた
研究について、以下の行為を行わないものとすること。
(1)ヒトiPS細胞を使用して作成した胚の人又は動物の胎内への移植その他の方
法によりヒトiPS細胞から個体を生成すること。
(2)ヒト胚へヒトiPS細胞を導入すること。
(3)ヒトの胎児へヒトiPS細胞を導入すること。
(4)ヒトiPS細胞から生殖細胞を作成すること。

 と書かれていて、きわめてわかりにくいが(苦笑)、『朝日』の記事ではわかりやすくまとめられている。
 あと、動物実験ではどれくらいの実績があるのか、確かごく初歩的な実験が報告されただけじゃないの、と素朴な疑問を抱いていたのだが、「動物の研究でもES細胞から生殖細胞を体外で作製することすら難しいことから、生殖細胞ができていない段階で受精を認めるのは当面できないとの意見が大勢を占めた」とある。「動物の研究でもES細胞から生殖細胞を体外で作製することすら難しい」ということならば、まずそれができてから、次に人間で、というのが正しい順序ではなかろうか。動物でもできていないことをいきなり人間でやってしまおう、受精させなければOK、ということか。いまいち理解に苦しむ。動物福祉的には、動物と人間は違うのだから、いずれにせよ最終的には人間で実施しなければならない、ならばいきなり人間でやるほうがむしろ倫理的、ということか。
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 明日はガッコへ。「社会学基礎演習」。そのほか書類の関係でいろいろ。08.12.2

現代思想2008年7月号 特集=万能細胞 人は再生できるか

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