病人を見殺しにする国

 本日はほぼ終日、自室にて作業。
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 いろいろとコメントしたいニュースがたくさんあるのですが、どれもこれもというわけにはいかないので、1つに絞りましょう。
 親が保険料を支払えないため、子どもが「無保険」になっていた問題が、とりあえずは改正保険法の可決によって解決されたようです。
 もちろん各紙伝えていますが、『毎日』が、当事者や専門家の声を拾うなど比較的深く掘り下げ、また、問題は「子ども」だけではない、ということを的確にまとめています。

 国民健康保険国保)の保険料滞納によって生じた「子どもの無保険」問題で、中学生以下の子どもを一律に救済する改正国保法が19日、参院本会議で全会一致で可決、成立した。厚生労働省調査(9月15日現在)で判明した無保険の子は全国で約3万3000人を数えたが、来年4月以降、子どもには保険証を無条件で交付し、医療を保障する。〔略〕(竹島一登、平野光芳「無保険:「無保険の子」解消へ 中学生以下を一律に救済、改正国保法が成立」、『毎日新聞毎日jp)』2008年12月19日東京夕刊)
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20081219dde001040090000c.html

〔略〕関係者からは法改正を評価するとともに、さらなる課題を指摘する声が上がった。
〔略〕
 無保険世帯の支援を行う徳島県住民団体の竹田節夫事務局長(59)は「対象年齢は18歳まで広げる必要がある」と今後の課題を挙げた。「病院に行けないというのは子どもだけでなく、お年寄りなど生活弱者も同じことだ」と、後期高齢者医療制度にも運動を拡大する考えだ。(平野光芳、深尾昭寛、竹島一登「無保険:改正国保法が成立、無保険の子救済 もう我慢しなくていいよ」、『毎日新聞毎日jp)』2008年12月19日東京夕刊)
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20081219dde041040031000c.html

〔略〕
 しかし、法律ができても、子どもが本当に必要な医療を受けているかは監視していく必要がある。保険証も、保険料の納付相談を前提とした窓口交付では、お金がない親はためらって取りに行かない恐れがある。〔略〕(「届いた声:無保険の子救済/上 大阪社会保障推進協議会・寺内順子事務局長」、『毎日新聞毎日jp)』2008年12月19日東京夕刊)
http://mainichi.jp/select/science/news/20081219dde041040061000c.html

〔略〕自治体は、半年ごとの納付相談を単なる保険料取り立ての場ではなく、生活改善のための総合的な情報提供の場にしてもらいたい。〔略〕(「届いた声:無保険の子救済/下 立教大准教授(社会福祉論)・湯澤直美さん」、『毎日新聞毎日jp)』2008年12月19日東京夕刊)
http://mainichi.jp/select/science/news/20081220dde041040034000c.html

 繰り返しますが、「子ども」だけが解決されるべき問題でしょうか。大人にも同様の問題があり、解決が必要だと思います。
国保死亡事例」の現状について、今年の春、全日本民医連が調査をまとめ、『医療介護CBニュース』などが伝えました。同記事はすでに登録者以外には読めなくなっていますが、僕の手元のファイルから抜き書きしておきます。

 経済的な理由で医療にかかれずに死亡した事例が昨年(2007年)の1年間で、少なくとも18都府県で31件に及ぶことが3月26日までに明らかになった。05?06年の2年間を対象にした前回の調査では29例だったが、今回は1年間で、その数を上回っていた。国民健康保険料を滞納すると、「短期保険証」や「資格証明書」を発行する方針を国が01年に固めてから、受診を控え手遅れになって医療機関にかかるケースが増えており、経済格差の広がりが?医療難民?を生み出しているとみられる。
 全日本民主医療機関連合会(全日本民医連)の「国保死亡事例調査」で分かった。調査は07年1月?12月までの1年間が対象で、資格証明書や短期保険証、無保険で受診が遅れて死亡に至った事例を集約。18都府県から31件が報告された。
 同様の調査は06年(05?06年の2年間を対象)にも実施。29例だった06年調査より、今回は半分の期間で死亡事例が上回っていた。〔略〕(「「国保死亡事例」18都府県で31件」、『医療介護CBニュース』、2008年3月26日午前10時18分)

 また、やはり今年春のことですが、日本医療政策機構の調査で、約3割の人が病院にかかることを経済的な理由で控えた経験がある、とわかりました。いわゆる受診抑制です。こちらは『毎日』の記事がまだアップされています。

 費用がかかるとの理由で過去1年間に医療機関の受診を控えた経験のある人が3割に上り、低所得層では4割近いことがNPO法人「日本医療政策機構」(東京都千代田区)の調査で分かった。日本の健康保険の自己負担は原則3割で、負担ゼロも少なくない他の先進国より高く、受診を控える割合が多いとのデータもある。必要な医療を受けられずに患者が死亡するケースもあり、低医療費政策の是非が問われそうだ。 
 調査は1月、住民基本台帳から無作為抽出した全国の20歳以上の4000人に調査用紙を送り、926人から有効回答を得た。
 体調が悪いのに過去1年間に受診を控えた経験のある人は31%だった。特に、低所得層(年間世帯収入300万円未満など)では39%に達する。高所得層(同800万円以上など)は18%、中間層は29%で、低所得層ほど受診を控えていた。
 同機構によると、01年時点の海外の調査では、受診を控えた経験のある人は英国3%、カナダ5%で、皆保険制度のない米国ですら24%だった。〔略〕(河内敏康「受診抑制:3割が経験…低所得層では4割近く 費用かかり」、『毎日新聞毎日jp)』2008年4月15日2時30分(最終更新4月15日 12時43分)
http://mainichi.jp/select/today/archive/news/2008/04/15/20080415k0000m040124000c.html

 赤木智弘君がこの国のことを「若者を見殺しにする国」と呼び、単行本のタイトルにしましたが(『若者を見殺しにする国』、双風舎)、それを少し変奏すれば、この国は「病人を見殺しにする国」ともいえそうです。前にも少し書いたことですが、人は、人を「殺す」ことにはしばしば躊躇するのですが、「見殺し」にすることには鈍感のようで(実際には「見」さえしない!?)、それがやっかいです。このあたり、いずれフーコーなども引きながら、論じ直してみたいと思います(『現代思想』2007年9月号「特集 社会の貧困/貧困の社会」に、市野川容孝さんの論考を含め、非常に重要な論文が掲載されています)。
 いずれにせよ医療費を含む社会保障費抑制政策に限界が来ているのは明らかでしょう。小手先の法改正だけではなく、社会全体の改善が望まれます。選挙はまだでしょうか。08.12.20

若者を見殺しにする国 私を戦争に向かわせるものは何か

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現代思想2007年9月号 特集=社会の貧困/貧困の社会

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