インフルエンザの「恐怖」

 はいはい、少しは空気を読みますよ。ブタ・インフルエンザあらため新型インフルエンザについて。
 すでに複数のブロガーたちが「マスコミはインフルエンザの恐怖を煽っている!」、「政府はインフルエンザに過剰反応している!」(どちらも大意)と訳知り顔で書いていますが、僕には、当のブロガーたちが煽られていて、過剰反応しているように見えます。
 まあ、下記のような記事を読めば、政府については、そう言いたくなる気持ちもわからないでもありません。

 世界保健機関(WHO)が新型インフルエンザの警戒水準(フェーズ)を「4」に引き上げ、メキシコから二便が到着した二十九日、成田空港は厳しい検疫体制が敷かれ物々しい雰囲気に包まれた。ゴーグルとマスクを着用した防護服姿の検疫官から検査を受け、大勢の報道陣に囲まれた到着客は「日本で発生したみたい」と驚いていた。〔略〕(宮本隆康、平松功嗣「『メキシコ以上の騒ぎ』 防護服の検疫官 大勢の報道陣 物々しさ 驚く到着客」、『東京新聞』2009年4月30日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/chiba/20090430/CK2009043002000090.html

 でも、政府というものの最大の役割は、国民の安全を守ることで、政府の行動を伝えるのは、マスコミの役割(の1つ)でしょう。つまりマスコミも政府機関も自分たちの仕事を粛々とこなしているだけで、それらを見聞きしてどう考えるかは、むしろ見聞きする側のリテラシーメディア・リテラシー科学リテラシー)の問題ではないでしょうか。失礼ながら、上記のようなブロガーたちの発言----リンクしましょうか? やめておきましょう----にはそうしたリテラシー(メタ・リテラシー?)の不足を感じます。
 記事をふつうに読めば、感染者はアメリカとメキシコに集中していること、死者はメキシコに多いこと、感染者も死者もそのほかの国ではそんなに多くないこと、感染してもほとんどは軽症でインフルエンザ治療薬を飲む必要すらなさそうなこと、飲む必要があったとしても効く薬(タミフルリレンザなど)があること、新型ばかり注目されているけど季節性「旧型」インフルエンザもあること、予防にはやっぱりうがいや手洗いが大切なこと、豚肉を食べることで感染する心配はないこと、ぐらいは誰でもすぐにわかるでしょう。
 そのうえでなお、以下のような美馬達哉さんやニコラス・ローズの指摘は、きわめて重要です。

〔略〕新型インフルエンザに対する最良の対策とはこう尋ねることだ。未来のリスクはさておき、いま人間を苦しめている感染症に対しては何ができるのか? そして新型インフルエンザを忘れること。(『〈病〉のスペクタクル』、人文書院、2007年、54頁)

なぜ、生命の終わりにある人の「尊厳」は生命倫理的な問題であって、何百万もの5歳以下の子どもたちを、予防可能な原因によって、広範囲に「死なせている letting die 」ことはそうではない〔生命倫理的な問題ではない〕のか? (Nikolas Rose, The Politics of Life Itself, Princeton Univercity Press, 2006, p.31)

 以上、自戒を込めて。09.5.3

「病」のスペクタクル―生権力の政治学

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