口は災いのもと

 空気を読まず幹細胞。
 先日あるところで、イアン・ウィルムットのヒトクローン胚研究からの撤退表明に代表されるように、世界的には、ヒトクローン胚研究に手を出そうとする研究者は少数派になりつつある、と口走ってしまったのですが、その後すぐ、韓国でヒトクローン胚研究への申請が認められました(苦笑)。

 ヒト体細胞クローンを用いたヒト胚(はい)性幹細胞(ES細胞)研究が、研究中断から3年ぶりに事実上許可された。
 大統領直属の国家生命倫理審議委員会(委員長:盧在京〈ノ・ジェギョン〉延世大教授)は29日、今年2月に保留していた車病院・鄭炯敏(チョン・ヒョンミン)教授のチームのヒト体細胞クローンによるES細胞研究計画について、卵子の使用を最小限に抑えることなど四つの条件を付した上で、事実上承認することにしたと発表した。生命倫理委はこうした意見を保健福祉家族部(以下、福祉部)に伝える予定で、福祉部が研究計画を最終承認すれば、体細胞クローンによるES細胞研究に対する禁止措置が3年ぶりに解除される。(キム・チョルジュン「体細胞クローン用いたES細胞研究再開へ」、『朝鮮日報』2009年4月30日)

http://www.chosunonline.com/news/20090430000022

 口は災いのもと、でしょうか……。
 日本でも、ヒトクローン胚研究解禁へ向けた制度づくりが、ゆっくりとですが、進んでいます。

 国の総合科学技術会議は21日、クローン人間を生み出すおそれがあるとしてクローン技術規制法の指針で禁止されているヒトクローン胚(はい)作りについて、研究目的に限って解禁する指針改正案を認める答申を出した。文部科学省は、5月にも改正案に沿って現行指針を改正する。
 改正案によると、ヒトクローン胚作製は、再生医療など難病治療に役立つ基礎研究のために胚性幹細胞(ES細胞)を作る場合にだけ認められる。実施できるのは、サルなど動物クローン胚作製の実績がある研究機関に限り、使うことができるのは不妊治療で余った卵子などとした。提供者から同意を得る方法や倫理審査の手続きも定めた。クローン人間づくりは、同法で禁止されている。(林義則「ヒトクローン胚解禁を答申 総合科学技術会議」、『朝日新聞』2009年4月22日0時37分)

http://www.asahi.com/science/update/0422/TKY200904210343.html

 ただし2006年に、日本の幹細胞研究者が自分たちはヒトクローン胚研究を実施するつもりは当面ない、と発言したことがあります。
 研究者たちは、iPS細胞の研究のためにはES細胞の研究も必要、と繰り返し発言していますが、それに「クローン胚由来のES細胞」が含まれるのかどうかは微妙です。が、理念的には、必要で、含まれるのでしょう。
 一方、僕は、ファン・ウソク事件以降、iPS細胞登場以前に、既存のES細胞から卵子を分化誘導して、それを体細胞核移植の「受け皿」に使うという戦略が登場するのではないか、と思っていました。
 実際、ES細胞やiPS細胞から精子卵子をつくるという実験も、少しずつ進められているようです。

 様々な細胞に変化できる新型万能細胞(iPS細胞)から精子卵子の元になる始原生殖細胞を作り出すことに、京都大と三菱化学生命科学研究所のチームがマウスを使って初めて成功した。人間への応用につながる成果で、不妊の仕組みの解明や新たな不妊治療へ道を開くと期待される。〔略〕同研究所は、これまでにマウスの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)からの精子の作製に成功している。〔略〕(無署名(読売新聞)「iPS細胞から精子卵子の元…京大など成功」、『読売新聞』2009年1月18日)

http://osaka.yomiuri.co.jp/university/research/20090118-OYO8T00325.htm

 今後は、こうした「人工卵子(?)」がヒトクローン胚研究、さらにはセラピューティック・クローニングの材料として用いられるようになるのではないでしょうか……といいたいところですが、僕の「予言」などアテにしないでくださいね。誰もしていないか。09.5.6