科学の広報

 ある人に教えてもらった記事なのですが……現役の科学部記者が「科学者らの広報戦略」の変容について書いています。

科学記者を始めた20年ほど前、記者の訪問を歓迎しない科学者は、けっして珍しくなかった。「新聞記者との付き合いには何のメリットもなく、時間の無駄。記者と親しい科学者は、同僚からうさんくさい目で見られる。真理の探究に没頭する科学者が、記者なんていう世俗を相手にしては沽券(こけん)にかかわる」というわけだ。それが今は、まったく違う。科学者も、研究に税金を使うからには自分の仕事を積極的に世間に説明するのが当然だとみなされ、大学や研究所はメディア戦略を練るまでになった。変われば変わるものだ。〔略〕(保坂直紀「様変わりした科学者らの広報戦略」、『読売新聞』2009年5月13日)

http://www.yomiuri.co.jp/column/science/20090513-OYT8T00319.htm

 コラムの内容自体は納得ゆくものです。しかし……。

米国の科学論文専門誌「サイエンス」に昨年7月、科学者はメディアとの接触をどう感じているかを調べた結果が載った。フランス、ドイツ、日本、英国、米国の科学者を調査対象としたその論文によると、自分の研究がメディアで紹介された直近の経験が「おおむね満足」だった研究者は半数を超えていた。

 とありますが、『サイエンス』は週刊なんだから何日号と書いてもらわないと! どうやら2008年7月11日号の「Interactions with the Mass Media(マスメディアとの相互作用)」という論文のようですが。無料公開されていないのが残念です。
 
Interactions with the Mass Media
http://www.sciencemag.org/cgi/content/summary/321/5886/204


 また、以下のようにも書かれてあります。 

だが、この調査をした研究者たちは、昨年12月の別の論文でこうも指摘している。これがはたして、科学者とジャーナリズムの望ましい関係なのだろうか。当然ながら、科学ジャーナリズムは科学者集団に奉仕するのが仕事ではないから、科学者が満足することは、それが良質なジャーナリズムであることを意味しない。科学者側の広報が巧みになればなるほど、科学ジャーナリズムは科学者集団のたんなる宣伝係で仕事をした気になってしまう恐れがある。

 こちらはもっと興味深いのですが、雑誌名すら書いてありません。どうやら『サイエンス・コミュニケーション』誌第30巻2号の「Science-Media Interface(科学とメディアのインターフェイス)」だと思われます。これも無料公開されていなくて残念。
 
Science-Media Interface
http://scx.sagepub.com/cgi/content/abstract/30/2/266


 このコラムの主旨、そして引用されている後者の論文の提起には、深く共感します。ちまたで「サイエンス・ライター」とか「科学記者」とか呼ばれていたり、名乗っていたりする人ってほとんど……ま、いいか。
 僕自身は自戒を込めてこの記事を読んだということにしておきましょう。09.5.23