あえて死んでいるとみなす世界

 13日(月)の参議院本会議で、臓器移植法の改定案が採決される模様です。
 参議院には、すでに衆議院を通過したA案のほかに、A案修正案(もしくはA'案)とE案(もしくは子ども脳死臨調設置案)が採決にかけられることになっています。
 7日付の『読売新聞』が、現行法を含むそれぞれの違いを比較的わかりやすくまとめています。

〔略〕修正案は、A案で現行法の「脳死した者」の定義から削除された「その身体から移植術に使用されるための臓器が摘出されることとなる者であって」との文言を復活させる。臓器提供の年齢制限を撤廃する規定や提供条件についてはA案通りとする。また、法施行3年後の見直しや虐待された児童の確認方法の検討を直ちに始めること、子どもの脳死判定に十分配慮することなどを付則に盛り込んだ。〔略〕参院では、民主、共産、社民、国民新党などの有志議員による「子ども脳死臨調設置法案」も提案されており、A案とA案修正案と合わせて3案が参院本会議で採決されることになりそうだ。〔略〕(無署名(読売新聞)「臓器移植法改正A案修正案…提供前提で脳死は「人の死」」、『読売新聞』2009年7月7日23時31分)

http://www.yomiuri.co.jp/feature/20090619-321924/news/20090707-OYT1T00966.htm

 ちなみに衆議院で採決にかけられたA案からD案までの4案の違いは、日本移植学会のまとめ(PDFファイル)がわかりやすいです。
 で……僕に客観的な意見など誰も求めていませんよね。では、僕が重要だと思う論評のみを紹介することにしましょう。
 生命倫理会議のブログで、小松美彦田中智明、倉持武各氏が『高知新聞』に、森岡正博氏が『朝日新聞』に、天田城介氏が『京都新聞』にそれぞれ寄稿した論考を読むことができます。
 また同ブログからもリンクされていますが、荻野美穂氏が『ウィメンズ アクション ネットワーク』のウェブサイトに寄稿しています。
 また生命倫理会議代表の小松美彦氏が、現在発売中の『世界』8月号で重要な指摘を数多く含む論考を寄稿しています。
 7日の参議院厚生労働委員会では森岡正博氏が参考人として証言したようですが、その後、氏の発言をまるっきり無視したような議論が続いたようです。森岡氏のブログがその経緯を伝えています。
 また、皆吉淳平氏のブログがこの間の経緯をたいへん手際よく論評し続けています。
 森岡氏と倉持氏は、昨年12月にアメリカの大統領生命倫理評議会が発表したレポート『死の決定をめぐる論争』を紹介しています。このレポートは、オバマ当選確定後の末期ブッシュ政権という最悪のタイミングで発表されたためか、英語圏のマスコミでもほとんど紹介されていません。僕はほんの偶然、その存在を知ることができたのですが、両氏が取り上げているのを読み、さすが、とうならずにはいられませんでした。このレポートは、脳死という概念そのものが疑問視されていることを指摘すると同時に、さらに踏み込んで臓器提出を正当化する新たな概念を提案しているという意味で、とても重要です。僕もいずれ熟読したうえで何かを書きたいと考えています。(もうすぐ公開されるネットラジオJCcast」で少しだけ紹介しました。)
 こうした状況を踏まえると……ある人を、生きているとわかっているうえで、あえて死んでいるとみなすというフィクションがまかり通る世界がもうすぐ到来するのかもしれません。09.7.11