幹細胞と生殖細胞

 昨日のことですが、幹細胞関連で、国内外それぞれで大きな動きがあったようですね。
 国内では、ES細胞やiPS細胞から生殖細胞をつくることが認められる方針がすでに示されていますが、またその動きが一歩進んだようです。

 文部科学省の作業部会は10日、あらゆる細胞になるヒトの胚(はい)性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)から、精子卵子などの生殖細胞を作る際の指針案に合意した。来週以降、約1カ月間パブリックコメントを募集。総合科学技術会議への諮問、答申を経て、来春ごろ施行される見通し。
 指針案では、生殖細胞の作成は容認するが、作成した生殖細胞を受精させて胚を作ることは禁止する。
 特に、国内のヒトES細胞を使う場合には、ES細胞の材料となった受精卵の提供者に生殖細胞作成について文書で同意を受けることとした。日本では、すでにあるES細胞について受精卵の提供者を特定できないようになっている。このため、既存のES細胞は事実上使えなくなるが、海外から提供されたヒトES細胞は基本的に使用できる。(須田桃子「生殖細胞:作成指針案に合意----文科省作業部会」、『毎日新聞』2009年12月11日東京朝刊)

http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121001000936.html

文部科学省の作業部会」というのは……「科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会特定胚及びヒトES細胞等研究専門委員会(第73回)及びヒトES細胞等からの生殖細胞作成・利用作業部会(第14回)」のことのようです。
 その一方、日本人も含む研究者たちが、iPS細胞においてもなお、倫理的問題が生じうるという意見をまとめたようです。
 これも各紙が伝えていますが、見出しに「生殖細胞」を入れているところと入れていないところがあります。

再生医療への応用で倫理的課題が少ないとされる新型万能細胞(iPS細胞)にも、多くの課題があると指摘する論文を、京都大やカナダなどの研究者グループがまとめ、11日付の米科学誌セル電子版に発表した。特に不妊治療研究の過程で生殖細胞が作製され、受精卵がつくられる可能性に警鐘を鳴らしている。
 論文は9月にスペインであった国際幹細胞学会の非公開の議論をまとめた。iPS細胞のもとになる組織を提供した人に知らされずに精子卵子が作製され、受精を経て子どもが生まれる可能性があると指摘。現状ではこうした問題への対処法がないことを懸念している。
 参加した加藤和人(かとう・かずと)京大准教授は「日本はまだ議論が足りない。世界的なレベルで対応が必要だ」と強調した。
 論文ではほかに、遺伝情報にまつわるプライバシーの問題や、組織提供の手続き、知的財産権の明確化などを課題として挙げた。(無署名「生殖細胞づくりに懸念 iPS細胞で研究者ら」、『47ニュース(共同通信)』、2009年12月11日)

http://www.47news.jp/CN/200912/CN2009121001000936.html

 文部科学省の作業部会が認めた幹細胞からの生殖細胞づくりに対して、この研究者グループは懸念を表明しているわけです。
 ……というか、こうした見解も考慮に入れられながら、認められる条件が詳細に決められていくのでしょう。
 残念ながら、論文は無料公開されていないようです。


iPS Cells: Mapping the Policy Issues
http://www.cell.com/abstract/S0092-8674%2809%2901497-4


 ちなみにiPS細胞においてもなお倫理的問題が生じうるという見解を表明したのは、この研究グループが初めてではありません。
 もう1つ残念なことは……僕は、ひと昔前にはこうした審議会などの動きをリアルタイムで目撃していたのですが、いまではメディア経由で知るだけになってしまったことです。09.12.12