リサイクル3話+アルファ

 一度使った紅茶のティーバッグをデスクに持ち帰った僕は、「それ、どうするのですか?」と聞かれてしまう。「僕の階層では、1つのティーバッグで2杯以上淹れるんですよ」と答えると、相手は反応に困っていたようだ。ジョージ・オーウェルの、紅茶を受け皿で飲むというエピソードに、どことなく似た実話。
 
 紀伊国屋書店の並びにある「TMシアター新宿」という試写室に初めて行った。『おやすみアンモナイト』という映画の試写を観るためにである。僕が座った椅子は、左側の肘掛けのカバーが取れてなくなっていた。携帯電話の電源を確認してください、と注意を促した関係者らしき男性は、僕のそばを通り過ぎたとき、その外れたカバーを見つけて拾い上げる。僕が、ここから外れたのでしょう、と教えたら、男性は、コマ劇場からもらってきた椅子なのでガタがきているのですね、と言っていた。へえ、ホントかな。


 リサイクル(正確にはリユース)された椅子に座りながら観た『おやすみアンモナイト』は、高円寺のリサイクルショップを拠点にさまざまな運動を繰り広げている「素人の乱」松本哉氏をモデルにしたらしい人物を主人公とする青春物語的な作品。フライヤーには、赤木君が感想を寄せていた。赤木君は「素人の乱」には批判的なはずだが、この映画にはあるていどの理解を示しているのかな。ちなみに会場には、ジャーナリストのK氏(らしき人)とS氏(確実)がいた。世の中狭い。聞くところによると、件のリサイクルショップは、元ニートやフリーターの若者の雇用を創出するだけでなく、シャッター通り寸前だった商店街を活性化させているとか。つまり家電だけでなく人間もリサイクルしている。もちろん、いい意味で、である。その一方で、僕は「素人の乱」的なものに疑問を感じないわけではない。貧しい者たちが力を合わせて生きていく。その大切さや楽しさを教えること。そのこと自体は悪いわけではない。しかしながら、そうした貧困層の様子を見て、非貧困層はどう思うか。楽しそうにやっているね、ならばそのままでいいでしょ、と思わないだろうか。つまり現状維持のイデオロギーが強化されかねないのだ。そんなことを考えながら観た映画は……あまり面白くなかった。
 
 いちど御茶の水に戻ってからの帰途。僕はふと、自分の乗っている電車が黄色の電車ではなくオレンジ色の電車であることに気づく。またやっちゃったよ(よく間違えるのだ)、と思い、電車を降りようとすると、自分の電車がいま神田に止まっていて、御茶の水に向かっていることを知り、唖然とする。御茶の水から乗ったはずなのに、御茶の水から離れているのではなく、御茶の水に向かっているッ!? どの電車をどのように乗ったのか、記憶が完全に消えている。09.12.17