長神風二『予定不調和 サイエンスがひらく、もう一つの世界』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 日本を代表するサイエンス・コミュニケーターによる著書。にもかかわらず、サイエンス礼讃に満ちている本ではない。むしろ逆の部分も少なからずある。フィクションによって読者の想像力を喚起しながら問題提起し、そこに事実に基づく著者独自の分析を加える、という方法論は、著者名は忘れたが、『セックス・イン・ザ・フューチャー』という本でも使われていたという記憶がある(ほかにも何冊かあると思う)。しかしながら『セックス……』がテクノロジー礼讃でしかなかったのに対して、『予定不調和』は、ある科学技術だけが推し進められた結果として「不調和」がありうるということを、遺伝子組み換え食品や遺伝子ドーピング、脳画像技術、デザイナー・ベビーなど僕にもなじみがあるテーマを題材としながら、きめこまやかに指摘する。しかしながらもちろん、単なるテクノフォビアには終わらず、「人々がその価値を十分に吟味して使うことで、そこにはきっと、予定はしなかった調和が生み出されるはず」という希望を結語としている。

予定不調和 (DIS+COVERサイエンス)

予定不調和 (DIS+COVERサイエンス)


 著者、訳者、版元のみなさま、ありがとうございます。10.5.23