「民事冤罪」と「弁護過誤」
最近、烏賀陽弘道さんの話を続けて聴く機会があった。出版労連の出版研究集会はシンポジウム形式だったので、これまでのオリコン裁判の経緯の大枠的な話を、ほかのSLAPP案件との対比のなかで聴くことができた。今日のアジア記者クラブの例会は、2月に烏賀陽さんが行なったアメリカ取材の報告会だった。
アメリカでの取材成果については、いずれ烏賀陽さんご本人がどこかで詳しく書くだろうから、ここでは触れない。その代わり、以前にも少し紹介したことのある烏賀陽さんの共著書『俺たち訴えられました!』(河出書房新社)について補足しておこう。
- 作者: 烏賀陽弘道,西岡研介
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2010/03/10
- メディア: 単行本
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烏賀陽さんも冒頭で述べているように、最近、安易につくられた対談本が多いように思う。しかし、本書『俺たち訴えられました!』は、著者の2人がお互いをインタビューするというスタイルで書かれているためであろう、心地よい緊張感のある記録作品になっている。対談本では、どちらかが「はじめに」を書き、もうどちらかが「あとがき」を書く、ということがお約束になっているようだが、本書では、どちらもご両人が書いているということも特徴的である。
内容についていえば、僕はオリコン裁判についてはあるていどフォローしてきたつもりだが、マングローブ裁判についてはまったく無知だったので、たいへん勉強になった。
本書での烏賀陽さんの最大の功績は、「民事冤罪」、「弁護過誤」という社会問題の新しい概念を提唱したことだろう。試しに国立国会図書館の雑誌記事データベースを検索してみると、「民事冤罪」では一本の論文も引っかからない。「弁護過誤」ではわずかに数本の論文が見つかる。どちらも、法曹分野の専門家にさえほとんど認識されていない概念なのだろう。
烏賀陽さんの問題提起を受けて、法学者や弁護士が関心を持ってくれるといいのだが……いやな予感もする。というのは、僕は生命倫理分野で、法学をはじめとする学者たちが、それなりの発言力を持っている人であっても新しい動きにはけっこう疎く、まるで自分たちが気づいていないこと、認識していないことは重要ではないかのようにふるまうのを何度も見てきたからだ。しかも彼らはしばしば、ジャーナリズムでの先駆的問題提起を無視したり、「後出しジャンケン」したりする。
まあ、法学者なんて烏賀陽さんの後を10年遅れてのろのろと歩いてくればいいのだが。10.6.23
追伸;
烏賀陽さんは最近、『法律時報』という法学専門誌に「「SLAPP」とは何か」という論文を書いた。この雑誌に掲載されたものならば、弁護士も法学者も無視するわけにはいかないだろう。
- 出版社/メーカー: 日本評論社
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