ある夏の日の幹細胞報道

 たったいま、YYjの日記で知ったのだが、ES細胞を使う臨床試験がようやく始まることになりそうだ。

メンロパーク、カリフォルニア、2010年7月30日――ジェロン・コーポレーション(ナスダック:GERN)は今日、「探索的新薬(Investigational New Drug : IND)」申請に課されてきた臨床試験差し止めが解除されたとアメリカ食品医薬品局が通知してきたことを公表する。同社の「GRNOPC1」の第1相臨床試験が急性脊椎損傷患者で始まるだろう。〔略〕

http://www.geron.com/investors/factsheet/pressview.aspx?id=1229

 この10年間、幹細胞技術の動向をウォッチし続けた者として、いろいろな意味で感慨深い。
 一方、日本では、京都大学の研究者らが腫瘍を起こしにくいiPS細胞の作成法を開発したという。各紙報じているが、僕が知りたいことをきちんと書いていたのは『朝日新聞』だけのようだ。

〔略〕マウスの受精卵にiPS細胞を移植し、成長させて調べると、c-Mycで作ったマウスは、死亡率もがんができる率も高いが、L-Mycでは、ほとんどがんができなかった。
 再生医療に応用するには、iPSから神経細胞など目的の細胞を作製して移植する。治療用に移植した細胞が、がんになりやすいかどうかは調べていない。中川講師は「今後の課題」としている。〔略〕(瀬川茂子「効率的なiPS細胞作製法開発 京都大」、『朝日新聞』2010年7月27日)

http://www.asahi.com/kansai/news/OSK201007270015.html

 さらにその一方で、ある患者がタイのクリニックで幹細胞治療と称されるものを受けたのだが、その後死亡したという出来事は、日本語圏では報じられていない。幹細胞治療が死亡の直接的な原因だとは確かめられていないのだが、何らかの教訓にはなるはずだ。
 
Death revives warnings about rogue stem cell clinics
http://www.newscientist.com/article/dn19056-death-revives-warnings-about-rogue-stem-cell-clinics.html?full=true

Strange lesions after stem-cell therapy
http://www.nature.com/news/2010/100622/full/465997a.html


 今回に限ったことではないのだが、日本のマスコミは総じて、この技術の明るい側面のみを伝える傾向がある。やはり気になる。10.7.31