『インセプション』

 映画の日には映画を観る。でも本日は運悪く日曜と重なっているので、当然ながらシネコンは混み合う。少しでもすいている時間帯をねらって、8時40分から始まる回のチケットを取るために7時40分ぐらいにシネコンへ行く。僕はいつも「出入り口に近い通路側」の席をリクエストするのだが、すでにほとんどが埋まっていた。
 というわけで、朝っぱらから『インセプション』を観る。いわずと知れたクリストファー・ノーランの新作。前作『ダークナイト』は、多くの人が認めるように僕も大傑作だと思うが、原作のあるもので、しかもリメイク作品とも形式的にはいえるものだった(ちなみに僕は、ティム・バートンらがやっていたころのバットマン・シリーズはあまり好きではなく、ノーランが手がけるようになってから好きになった)。監督など映画制作者たちの真の実力が試されるのは、いうまでもなく映画オリジナル作品である。お手並み拝借といったところ。
 夢のなかに侵入するという基本的アイディアは、筒井康隆原作、今敏監督の傑作アニメ映画『パプリカ』と共通する。ほかにも『トータル・リコール』や『マトリックス』を思い出させる。しかしながら、夢のなかで、さらにもう1回眠りについてまたその夢のなかに侵入していく、という展開は、SF映画史上初めてではなかろうか。そのため、観客は混乱を強いられる。登場人物もしばしば混乱するのだから、観る者が混乱するのも無理はない。
 最近の映画は、悪い意味で“誰にでもわかる”“わかりやすい”作品が多いように思われる。観客は混乱するどころか、解釈を求められることすらない。そうした作品は、しばしば印象が薄い。僕は、そんな映画――に限らずフィクション作品全般――はつまらないと思う。混乱や解釈があってもなお、強烈な印象が残る作品こそ名作であろう。
 そうした意味では、『インセプション』は佳作だ。僕を含む観客の多くは、いま劇中で何が起こっているのかを必死に理解しようとしながら最後まで観続けたのではなかろうか。CGやアクションも悪くなかった。
 しかしちょっと複雑すぎて、何がどうなったのかよくわからなかった、という印象も否めない。もう1回観て、伏線など含め、筋をしっかり追い直したい。「もう1回観よう」という気を起こさせることは、名作といえる条件の1つだと思う。10.8.1
 
追伸;
 上映前の予告編で『トロン』がリメイクされることを知った。オリジナルは、いわずと知れた、サイバーパンク登場以前のサイバーパンク(プレ・サイバーパンク?)映画である。インターネット普及後にどう解釈され直されるのか、楽しみだ。サイバーパンクといえば、2年ぐらい前、その元祖中の元祖、『ニューロマンサー』の映画化の噂が流れたが……大作となるはずだった企画は立ち消えになり、独立系の小さな会社が制作することになったらしい。もちろん理屈のうえでは低予算でもいい映画をつくることは可能だが、SFではその可能性は低いだろう。残念。

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)