『ミックマック』

 映画の日には映画を観る。
 毎月1日の、いちばんコストパフォーマンスのいい使い方は、シネコンマイレージを使えないミニシアターでかかる作品を観ることである(シネコンにはほかにもいろいろとサービスがあるので、1日は、“お得感”があまりない)。
 というわけで、シネスイッチ銀座で『ミックマック』を観る。いわずと知れたジャン=ピエール・ジュネの新作。僕は、『アメリ』はもちろん、『エイリアン4』も『デリカテッセン』もそれなりに好きだが、彼の作品のなかでいちばん好きなのは『ロング・エンゲージメント』である。ピエール・ジュネというと『アメリ』の印象があまりに強く、『ロング〜』はあまり話題にされないように思う。監督はそれに懲りたのか、『ミックマック』は『アメリ』路線の作風に戻っている。
ロング・エンゲージメント』はシネコンで観た記憶があるが、『ミックマック』はミニシアターでしかかからないようだ。このあたりの事情はよくわからない。

発砲事件で頭に銃弾が残ってしまったバジルは、ガラクタ修理屋のプラカールと出会い、ユニークな仲間たちと共にガラクタ集めを手伝うことに。新たな人生を得たバジルだったが、ある日、頭のピストルの弾を作っている会社と父の命を奪った地雷製造会社を発見。人生をメチャクチャにした死の商人に仕返しをしようと企む。

http://www.cinematoday.jp/movie/T0008646

 映画は、地雷の撤去作業に取り組んでいた主人公の父親が作業中の爆発事故で死亡するシーンから始まる。次に主人公は、発砲事件にまきこまれて頭を打たれ、職を失う。
 作風こそ『アメリ』風だが、モチーフはややシリアスである。
 地雷、犯罪被害、精神疾患、ホームレス、武器輸出……というと、全体的に暗いトーンがただよいがちだが、『ミックマック』はそれらをユーモアのオブラートでくるんで観客に示す。オブラートをどれだけ見透かすことができるかは観客次第。
 地雷関係のシーンは、当然のことながら、『ハートロッカー』を思い出させた。銃弾が頭に残っているという主人公の設定は、タイトルは忘れたが、007シリーズにもあったと思う(もちろんジェームズ・ボンドではなく敵の設定)。武器輸出関係は『ロード・オブ・ザ・ウォー』や『ダーウィンの悪夢』、復讐というストーリー展開は『イングロリアス・バスターズ』などを彷彿とさせたが、『ミックマック』では、いずれの要素も『アメリ』的に演出されている。ついでながら、廃品回収業を営む主人公たちの隠れ家が、美術的に秀逸だった。こういう細部へのこだわりが感じられる作品には好感を抱ける。