「国境を越える身体とツーリズム」

 午後、メーガクで、「国境を越える身体とツーリズム」という公開講演会を聞く。講演者は、柘植あづみ先生、出口顯先生、粟屋剛先生。
 それぞれ興味深かった。
 出口先生の講演がスゴすぎた…。テーマは北欧諸国の国際養子縁組。出口先生は生殖技術や臓器移植についての著作があり、僕は映画『21グラム』のパンフレットに解説を寄稿したとき、確か援用させていただいたはず。またレヴィ=ストロースの解説書も秀逸だった。
 その出口先生がなぜ養子なのだろう、と思って聞いてみたのだが、単に僕が知らなかったからかもしれないものの、かなりインパクトのある内容だった。出口先生が示したデータによれば、世界で最も国際養子縁組を受け入れているのは北欧諸国。南米やアフリカ、そしてアジアからかなりの国際養子が渡っており、そしてすでに国際養子が家族を形成し、彼らが国際養子を受け入れて育て始めている。僕の目には、彼らはおおむねうまくいっているように見えた。もちろんそれなりに問題もあるらしいが。
 日本では、提供精子による人工授精で生まれた子どもたちが成人し、自分たちの生物学的アイデンティティについて悩み、出自について知りたがっていることが知られ始めている(会場ではその件についての貴重な資料が販売されていたので購入した)。それと対照的な印象。北欧に渡った国際養子たちは自分たちを北欧人だと思い、むしろ育ての親が、子どもたちが生まれた国の文化などに触れさせようと努力しているという。
 いちばん驚いたのは、ある親子の写真。彼らの間に、当然ながら血縁はなく、肌の色さえ違うのに、2人の笑顔はそっくりだった。ものの好みや考え方が似てくるのはわかる。同じ環境で生活しているのだから。しかし、一枚の写真で普通の親子かと思うぐらい似ているのだ。そのほかの親子も結構似ていた。
 DNA伝説はやはり伝説のようだ。テクノロジーによって伝説が再び流布しないことを祈る。