元ちとせ「冬のハイヌミカゼ」

 御茶の水でひと仕事した後、地下鉄で赤坂に向かう。元ちとせのライブ「冬のハイヌミカゼ」を赤坂BLITZで聴くためだ。そうでなければ、誰が赤坂などに行くものか。


 元ちとせをライブで聴くのはひさしぶりだ。彼女は出産をはさみながらも精力的に活動し続けているが、僕はここしばらく生活を再建するのに忙しく、チケットを取り損ね続けていた。たぶん、2年ぐらい前の「冬のハイヌミカゼ カッシーニ」以来だ。
 カヴァー・アルバムを2枚同時発売してから数カ月、シングルも出していないというタイミングで、どういう選曲になるか、すごく楽しみだった。
 チケットの番号が若かったので、最前列に近い席だろうと思っていたが、残念ながら勘違いだった。でも狭いハコなので十分だった。またスタンディングではなく座席指定というのは、おっさんにはありがたい。ちなみに会場の平均年齢は、CoccotoeMOGWAIなどと比べて、きわめて高い(苦笑)。
 誰のライブでも、僕はオープニング曲を勝手に予想して楽しむのだが、今回はまったくわからなかった。
 バンドはシンプルな4人編成。パーカッションも弦楽器も管楽器もなし。演奏は全体的に、レコーディング・バージョンとはずいぶん違うものになるだろう、と思って待っていると……。
 シンプルなアレンジで始まった1曲目は、「サンゴ十五夜」。メジャー・デビュー・アルバム『ハイヌミカゼ』の1曲目である。しかも2曲目はそのタイトル曲「ハイヌミカゼ」だった。(最初の数曲、声の出がちょっとよくないようにも感じた。その後のMCの声も気になるもので、風邪をひいていたのかもしれない。しかしその後はとくに気にならなかった。)
 最初から最後まで、サプライズが続いた。なかでも「羊のドリー」には驚いた。『ハナダイロ』の1曲目で、生ではもう聴けないと思っていた1曲目だ。元ちとせは福岡ハカセと交流があるらしいが、粥川ハカセは毎年大学の授業でクローンの話をするときには、この曲を使っているのだ。続いて、「恐竜の描き方」が……僕はこの2曲を、“元ちとせの生物学シリーズ”と勝手に呼んでいる。


♪歩き出した巨大な影の背に乗って
 私は何を知りたいのだろう
 ケモノにも鳥にもなれなかったあなた
 空を見上げ吠えて見せてよ ♪
                 ――「恐竜の描き方」


「散歩のススメ」と「ハミングバード」もうれしい選曲だ。どちらもシングルのカップリング曲でオリジナル・アルバムには入っておらず、ライブ盤『冬のハイヌミカゼ』にライブ・バージョンが入っている曲だ(僕はシングルを持っているけど)。


♪心地よい痛み それは
 乗り越えた証し もう大丈夫 ♪
                 ――「ハミングバード


 僕は闘病期間中、何度も何度もこの曲を聴き、自分に対してこう言える日が来るのを願っていたっけ……。
“アコースティック・コーナー”では、なんとウッドベースだけの伴奏で「名前のない鳥」を聴くことができた。続いてピアノだけの「語り継ぐこと」、アコギだけの「玉響」も。
 そのうえ、つくられたのだが、これまで未発表だったらしい曲まで、初披露された。曲名は……植物の名前だったと思う。次のアルバムに収録されるかもしれない。
 アンコールでは、なんと中孝介がゲストとして登場。鹿児島に新幹線が走ることを記念してつくられたという曲のほか2曲を披露。中孝介というと、台湾映画『海角七号』に本人役で登場していたことから、一青窈との接点がありそうだと思っていたが、元ちとせと接点があったとは。
 振り返ると、今回のライブで披露された曲は、シングルになっていない、いわゆるアルバム収録曲や、アルバム未収録のカップリング曲がほとんどだった。コアなファンの期待に応えるために、よく練られた選曲だったと思う。いうまでもなく、僕も大満足である。
 次は、夏の「音霊」だろうか。見逃さないようにしたい。

追伸:
 某SNSのコミュニティで、早くもセットリストが上がっていた。正確かどうかはわからないが、僕の記憶よりは信頼できるはず。

1. サンゴ十五夜
2. ハイヌミカゼ
3. 初恋
4. 羊のドリー
5. 白夜
6. 恐竜の描き方
7. ミヨリの森
8. 名前のない鳥(with 鈴木正人
9. 語り継ぐこと(with Sunny)
10. 玉響(with 石井マサユキ)
11. なごり雪(イルカのカバー)
12. サンスベリアハニー(未発表曲)
13. 散歩のススメ
14. ハミングバード
15. 音色七色
16. あかこっこ
17. カッシーニ
18. 六花譚
19. ワダツミの木
<アンコール>
20. 春の行人(with 中孝介)
21. やわらかなサイクル(with 中孝介)

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