『ショージとタカオ』

 夜、新橋のTCC試写室で、ドキュメンタリー映画『ショージとタカオ』を観る。
 結論からいうと、たいへん興味深いものだった。1967年にある殺人事件が起き、2人の男性が逮捕された。2人は「自白」したものの、その後は無実を主張し続けた。彼らの主張は2人の服役が終わり、仮釈放されてから現在まで続いてる。2人は無実が認められて、出所したわけではない。だから彼らは29年ぶりに刑務所を出てからもたたかい続けるのだ……と書くと、いわゆる冤罪もののドキュメンタリー作品のように思えるだろう。冤罪問題を扱っていることは間違いではない。その通りである。「布川事件」として知られるこの事件は、「冤罪事件」として広く知られる事件である(らしい。僕は不勉強なことに、あまりよく知らなかった)。しかしこの映画は、むしろ1996年以降、彼らがシャバに出てきてからのことに焦点を置いている。
 もちろんその過程で、警察や検察、裁判所が抱える問題があぶりだされる。それは予想通りである。かなりシリアスにならざるを得ないこの展開のなかで、カメラが描き出すのは2人の明るさであり、たくましさである。
 2人とも29年間も世間から隔離されていたのに、数年のうちに伴侶を見つけている。もちろん仕事も。彼女をつくることには自信があった、などいくつかの彼らの言葉は、鑑賞者を何度も笑わせた。公式サイトやフライヤーでは、2人が並んで歩いている様子の写真が使われているのだが、この場面の撮影の前には、おれヤラセは嫌いなんだけど、という言葉が発せられ、試写室は笑い声で満ちた。もちろん、彼らは明るいだけではない。彼らの明るくない側面も、カメラはきちんととらえている。
 というわけで、同じく冤罪を扱った映画『BOX 袴田事件 命とは』とどうしても比べてしまった。『BOX〜』はドキュメンタリーではなく、実録ものなので、単純には比べられないのだが、あまりに社会的主張が強すぎ、また「悪」の描き方が単調すぎ、失礼ながら僕はあまり高く評価することはできなかった。しかし『ジョージとタカオ』は、単なる社会派映画を超えた作品に仕上がっている。秀逸。もちろん、僕の知人である児玉氏が宣伝等にかかわっていることは差し引いてもらってかまわない。
 ちなみに音楽はなぜかほとんどすべてブルースだった。「フツーのおじさんになりたい!」という宣伝コピーは、どうしても土屋トカチ監督作品『フツーの仕事がしたい』を思い出させる。ドキュメンタリー映画のコアなファン層を意識しているのだろうか。そういえば、試写室で、僕の右隣にすわったのは、人権問題への取り組みで知られる弁護士だった。著名なジャーナリストもいた。あるシーンでは、やはり僕の知人で、冤罪事件を追っているジャーナリスト今井恭平氏の姿も写っていた。
 今年3月にはロードショーが始まり、そして布川事件の再審公判の判決も下されるとのこと。