追伸―小説版『海炭市叙景』などについて
『海炭市叙景』について、忘れないうちに補足しておこう。短編小説集『海炭市叙景』の最後に「しずかな若者」という作品が収められている。ふだんは首都に住んでいるが、近親者の故郷である海炭市に一時滞在している若者の話だ。この設定は……村上春樹の『風の歌を聴け』と似ている。
そしてこの短編集で、この作品でだけ、映画や音楽、小説などカナカナの固有名詞が飛び交っている。つまりこの作品はほかの作品よりも、ハルキ的というか、バブル的というか、80年代的なのだ。佐藤も時代の雰囲気に抗えられなかったのだろうか。
そして文庫版の解説は川本三郎である。いわずと知れた映画評論家で、春樹のロング・インタビューをしたこともあるはず。川本といえば、記者時代の経験を書いた『マイ・バック・ページ』がもうすぐ映画化される。
僕のある友人は、村上の『ダンス・ダンス・ダンス』のあるシーンが、『マイ・バック・ページ』のある部分を彷彿とさせる、と指摘していた。残念ながら僕はそれを確認できていない。いまさらながら気になる。
映画版『マイ・バック・ページ』で、川本がモデルと思われる記者が取材する学生活動家を演じるのは……『ノルウェイの森』のワタナベ役が記憶に新しい、松山ケンイチである。偶然にしては興味深すぎる。
『マイ・バック・ページ』、映画を観る前に再読しよう。
『海炭市叙景』と『ノルウェイの森』は、こんなかたちでつながっている。少なくとも僕の中では。
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