『わたしを離さないで』

今日は映画の日だった。日比谷のシャンテで『わたしを離さないで』を観る。
3.11以来、映画のことなんてほとんど忘れていた(シネコンが休んでいたこともあるが)。ようやく観る気になり、久しぶりに観た映画として、『わたしを離さないで』は、正しい選択だっただろうか。いうまでもなくカズオ・イシグロのベストセラー小説を映画化したものである。
僕は映画を観てから原作を読むというパターンが結構多いのだが、この作品に関しては、先に原作を読んでいる。この小説を読んだ人、あるいはこの映画を観た人(そして僕のことを知っている人)は、僕がこの小説を読んだ理由を察していただけるかもしれない。昨今、生命倫理的なテーマは、小説・マンガ・映画を問わず、フィクションの世界では、もはや一大ジャンルになりつつあるようだ。それともそれは僕の思い込みだろうか。
どのレビューでも、この映画の“オチ”は、当然ながら書かれていないが、僕は事前に原作を読んだため知っていた。残念ながら、“オチ”に驚く、という楽しみは得られなかった。
原作では、作品世界の秘密がなかなかはっきりと書かれず、徐々に徐々に明らかになっていく。そのあたりのことが、映画でどのように描かれるのか楽しみだったのだが、わりと早い段階で、しかもわかりやすいかたちで明らかにされてしまった。映画というメディアの特性上、ある程度の単純化は仕方ないかもしれない。それでも読む者,いや観る者に、ある程度の読解の努力を強いる、という姿勢は、原作を引き継いでいたと思う。映画にしては、よくやっていたはずだ。僕は、あまりにも「わかりやすい」映画を観ると、冷めてしまう。バカにしてんのかよ、と思ってしまうのだ。そういえば、『わたしを離さないで』と非常によく似たテーマを扱った映画で、『アイランド』という作品があった。観客はバカ、という前提でつくられたかのような映画だった。『わたしを離さないで』は、『アイランド』を良心的につくり直したもの……と表現してしまいたくなったが、いかがなものか。
それはともかく、キャリー・マリガン演じるキャシーというキャラクターはすばらしい。彼女は、悲劇的な運命をうすうすと知りつつも、それに対して彼女なりの抵抗と受容を示す。その姿はあまりにも美しい。青春ものやSFもの――あるいは“閉鎖社会もの”――の要素も入れつつ、そのどれにも収まらない逸品に仕上がっていたと思う。
生命倫理映画(生命倫理的なテーマを取り入れた映画)”は、これからもどんどん公開される。次は『キッズ・オールライト』かな。

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)